「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道」イチローがくれた未来

カテゴリ:話題

  • 東京ドームが壊れるほどだった観客の“360度熱視線”
  • 会見は夢のような贅沢な時間だった
  • 最果ての未来を想像させてくれたイチローの言葉

「大きなギフト」

写真:時事

真夜中にまで及んだ83分間の引退会見。

「皆さん、もう眠いでしょ。じゃあ、そろそろ帰りますか・・・」

45歳のスーパースターが振り返った「長き現役生活の時間」は、あっという間に終わりを迎えた。

シアトルマリナーズの開幕戦が「日本・東京ドーム」に決まり、開幕スタメンを告げられたイチロー選手は会見でその喜びを「大きなギフト」と表現してみせた。

これまで本人が語る「50歳まで現役」という常人離れした決意を信じてやまないファンは多かったはず。しかし、心の何処かで「もしかしたらこれが日本で見られる最後のプレーになるかもしれない」との思いでこの日を迎えたファンが居たのも事実。

自分もその一人だった。

そして結果的にこの開幕戦は、私達にとっても「大きなギフト」になった。

背番号51を食い入るように見つめる観衆

写真:時事

開幕2戦目、夕方の生放送が終わり駆け付けた東京ドームは、既に「引退速報」を知ったファンで埋め尽くされ異様とも言える熱気と興奮の渦に包まれていた。背番号51を食い入るように見つめる観衆の目は、彼が残した輝かしい成績以上に、眩しく光り輝いていた。

イチロー選手が打席に立つと、守備に就くと、打球を捕球すると、皆が一気に身を乗り出し、あの広大な東京ドームの空間が轟音を立てる様にしてグググッと圧縮されとても狭く感じられた。加えて攻守が入れ替わる度に行われる、メジャー初先発の菊池雄星投手とのグラブタッチも美しかった。

ただ、引退事実を知ったばかりの会場が一番気にしていたのは、何回の何処まで背番号51がグラウンドに立ち続けるのかという一点に絞られていた。試合が進むにつれて沸き起こる「まだ交代はしない、大丈夫!大丈夫!」祈りとも安堵とも表現できる声。いつ訪れてもおかしくない有終のワンプレーを見逃すまいという興奮と、しかし受け入れたくない現実。約5万人の心はその狭間で複雑に揺れ動き、皆がカメラマンと化した。

8回表。迎えた現役最終打席。ファンは今でも語り継がれる2007年WBCで決勝タイムリーを放ったあの光景を照らし合わせ、これまで無安打だったスーパースターに「最後は絶対に決めてくれる」と思いを寄せた。決死の内野ゴロだった。

8回裏。マリナーズの守備。背番号51の背中は軽やかに弾みグラウンドに向かった。大歓声が沸き起こった。選手交代はまだだ。もう少しイチローのプレーが見られる。その時だった。選手交代が告げられた。歓喜が悲鳴に変わった。東京ドームが壊れるかと思った。

360度熱視線に囲まれた中央で脱帽し、両手を挙げる姿に目頭が熱くなった。

写真:時事

夢のような贅沢な時間

私は選手イチローに特別詳しいわけではないが、あんなにも柔らかくて自然体に会見に応じていた姿を見たのは初めてだった。一言一言が興味深くて、面白くて、勉強になって“引退”会見である事を忘れさせた。

深夜に行われた1時間23分間の会見は夢のような贅沢な時間だった。そしてイチロー選手の「皆さん、もう眠いでしょ。じゃあ、そろそろ帰りますか・・・」で夢から覚めた。イチロー選手は現役を引退した。

写真:時事

イチロー選手が残した言葉の中で「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行く、ただ一つの道」という有名なフレーズがある。これは2004年メジャーリーグ年間安打記録を破った際の記者会見で生まれたもので、当時社会人一年目を送る自分にとっては最果ての未来を想像させてくれた忘れられない大好きな言葉である。

決して多いとは言えないメジャーリーグ公式戦の日本開催、だからこそ母国日本を引退試合に選んでくれた事に心から感謝したい。お疲れ様でした。

写真:時事

【執筆:フジテレビ アナウンサー 倉田大誠】
【写真:時事】