もはや共通の価値観もなし? 韓国の対日表現削除は意趣返しか…危機深まる日韓関係

カテゴリ:国内

  • 韓国の国防白書から日本と「基本的価値を共有」の表現削除
  • 産経ソウル支局長起訴をめぐる日本政府の表現変更への意趣返しか
  • 安倍首相の施政方針演説でわかる日韓悪化と関係議員の苦悩 

韓国の国防白書が日本に関する表現を変更

韓国軍艦艇による日本の自衛隊機へのレーダー照射問題や元徴用工らをめぐる問題などで、日韓関係が悪化の一途をたどる中の1月15日、新たなニュースが韓国発で流れた。

韓国政府が発表した2018年版の国防白書で、日韓関係について前回版までは記述のあった「韓日両国は自由民主主義と市場経済の基本価値を共有している」という表現が消えたというのだ。韓国の国防白書は2年ごとに発刊されるのだが、改めて、今回の2018年版の表現と、前回2016年版の表現を比べてみたい。

<2016年版>
韓日両国は自由民主主義と市場経済の基本価値を共有していて東北アジア地域はもちろん世界の平和と繁栄のために共に協力していかなければならない隣国だ。
(この後、両国防衛当局の交流についての記述が続くが、ここでは略)
しかし、一部の日本政治指導者の退行的歴史認識と独島(注・島根県の竹島の韓国での呼称)に対する不当な領有権主張などは両国関係が未来志向的に進むのに障害要素になっている。今後も独島に対する日本の不当な主張に対しては断固として厳重に対処する一方、北核ミサイル威嚇など主な懸案に対しては朝鮮半島と東北アジアの平和と安定のために持続的に協力していくだろう。

<2018年版>
韓日両国は地理的、文化的に近い隣国であり世界平和と繁栄のために共に協力していかなければならない同伴者だ。
(この後の両国防衛当局の交流部分は割愛 内容は2016年版とほぼ重複)
しかし一部の日本政治指導者の歴史認識と独島に対する領有権主張などは両国関係が未来志向的に進むのに障害要素になっている。今後も歴史歪曲および独島に対する日本の不当な主張に対しては断固として厳重に対処する一方、朝鮮半島と東北アジアの平和と安定のために持続的に協力していくだろう。

このように今回、「自由民主主義と市場経済の基本価値を共有」という表現がきれいに消え「地理的、文化的に近い」というあっさりした表現に変えられている。そして、「歴史歪曲」という言葉が加わったほか、日韓両国にとっての「北朝鮮の核やミサイルの威嚇など主な懸案」という表現が、南北の融和を受けて消え去った。さらに日本に関する部分以外では、北朝鮮政権・北朝鮮軍について「敵」と表現してきた部分も今回は削除された。

この韓国側の表現変更について、記者会見で問われた菅官房長官は「韓国政府の意図についてコメントは控えたい。その上で申し上げれば、日韓関係は現在非常に厳しい状況にあると考えており、我が国としては様々な問題について、我が国の一貫した立場に基づき引き続き韓国側に適切な対応を求めていきたい」と述べた。

菅官房長官

表現変更の背景に、2015年の日本の対韓国表現の変更

今回、日本についての「自由民主主義と市場経済の基本価値を共有」という表現が消えた理由としては、旭日旗掲揚問題やレーダー照射問題などの防衛当局間の懸案を含む様々な問題での日韓関係の悪化が反映されたものとみられる。

一方で、専門家からは日本政府が2015年に行った、韓国に関する表現の変更への対抗措置だという指摘が出ている。確かに2015年に日本政府は、外交青書や外務省のホームページなどでの韓国に関する表現について「自由と民主主義、市場経済等の基本的価値を共有する重要な隣国」という表現を削除し、単に「もっとも重要な隣国」というあっさりした表現に変更している。

では、この表現変更は何がきっかけだったか。日本政府が公式に見解を示したわけではないが、それは2014年に発生した大きな問題に起因する。2014年10月、当時の朴槿恵大統領の名誉を傷つけたとして、産経新聞の前ソウル支局長が在宅起訴され、その前後長期間にわたって出国が許されなかったことだ。

朴槿恵前大統領

民主主義においてもっとも大事な価値観の1つである「言論の自由」を脅かし、刑事事件化させた当時の韓国の対応に対する日本政府の不信感、つまり「自由と民主主義という基本的価値を共有している国とはとても言えない」という判断があったのだ。

今回は、この4年前の表現変更と類似の措置を韓国側がとった形だ。しかし産経新聞支局長の起訴の後も、日韓請求権協定に反する徴用工問題をめぐる韓国司法や政府の対応、さらに竹島への韓国国会議員の上陸など、韓国側の一方的な行動が続く中で、その韓国側が表現を変更したことは、あまりに皮肉な措置でありタイミングだ。

安倍首相の施政方針演説に見る日韓関係の悪化

実はこうした諸外国に対する政府の表現の変化は、その国との関係性を明確に表すものだ。外務省が2015年に韓国に対する表現を変更したきっかけは、安倍首相が年頭の施政方針演説での韓国に対する表現を変えたことなのだが、その安倍首相の施政方針演説での韓国に関する表現の変遷を見てみたい。

2013年
「韓国は、自由や民主主義といった基本的価値と利益を共有する最も重要な隣国です。朴槿惠新大統領の就任を心より歓迎いたします。日韓の間には困難な問題もありますが、二十一世紀にふさわしい未来志向で重要なパートナーシップの構築を目指して協力していきます」

2014年
「韓国は、基本的な価値や利益を共有する最も重要な隣国です。日韓の良好な関係は、両国のみならず、東アジアの平和と繁栄にとって不可欠であり、大局的な観点から協力関係の構築に努めてまいります」

 2015年
「韓国は最も重要な隣国です。日韓国交正常化五十周年を迎え、関係改善に向けて話合いを積み重ねてまいります。対話のドアは、常にオープンであります」

安倍首相の施政方針演説(2016年2月)

 2016年
「韓国とは、昨年末、慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認し、長年の懸案に終止符を打ちました。戦略的利益を共有する最も重要な隣国として、新しい時代の協力関係を築き、東アジアの平和と繁栄を確かなものとしてまいります」

2017年
「韓国は、戦略的利益を共有する最も重要な隣国です。これまでの両国間の国際約束、相互の信頼の積み重ねの上に、未来志向で、新しい時代の協力関係を深化させてまいります」

2018年
「韓国の文在寅大統領とは、これまでの両国間の国際約束、相互の信頼の積み重ねの上に、未来志向で、新たな時代の協力関係を深化させてまいります」

このように年を追うごとに、韓国に対する友好的な表現は後退し、2016年に前年の慰安婦問題での日韓合意を受けて前向きな表現が登場するものの、その後の「信頼」の必要性を訴える表現の登場は、逆に信頼関係が築きづらい状況への懸念が見て取れる。

この施政方針演説にも表れている日韓関係悪化の原因としては、安倍政権発足当初は、安倍首相の靖国神社参拝など、日本側の行動に韓国側が反発する要素もあったが、近年は主に韓国側の行動に起因するものがほとんどではないだろうか。

知日派・知韓派議員たちの苦悩

去年、韓国の金鍾泌元首相が亡くなった。金鍾泌氏は、日韓国交正常化の立役者であり、徴用工問題でとりあげられる、事実上の戦後賠償を含めた請求権を「完全かつ最終的に解決」するとした日韓請求権協定の締結にも尽力した、韓国きっての知日派だった。「韓日議員連盟」の会長も務め、竹下元首相をはじめ日本の国会議員とも太いパイプを築き、日韓友好に尽くしてきたが、悪化する日韓関係を案じたままこの世を去ったという。

金鍾泌元首相

そして今、日本の政界でも韓国と太いパイプを持つ国会議員は減りつつあり、両国の関係を支えてきた議員たちも苦悩している。日韓関係がこれだけこじれる中で、韓国との友好の大切さを訴える声は、あげづらい状況になっているのだ。日本側の「日韓議員連盟」の幹部は私の取材に対し、「物が言いにくくなっている。議員もそれぞれ支持者を抱えているから、弱腰とみられるようなことは言えない」と述べたうえで、韓国側の事情について次のように説明している。

「韓国の議員にも、文政権ではダメという勢力が半数はいて、国内政治の行き詰まりを外交で発散しているような状況に不満を持っている。韓国の知日派議員は、一連の韓国側の対日対応について、前政権のやったことをひっくり返すという国内政治の問題が原因で、日本がターゲットという訳ではないと言っていた」

「韓国側は世論も政治家も興奮しておらず、その分、日本で韓国の対応が問題となっている重大さを認識していない。そのギャップが問題だ。そうした中では、なるべく政治問題化しないことが大事だ」

文在寅大統領

このまま日韓関係が悪化し、日本での嫌韓ムードがより深刻になれば、両国の関係は修復不可能なことになりかねない。韓国側が一連の対応を改めるのはいつになるのか、そして両国が冷静に対話できる環境が取り戻される日はいつになるのだろうか。時間が解決してくれるというには、あまりに厳しい状況に陥っているのかもしれない。

(フジテレビ 政治部デスク 高田圭太)