“トランプの壁”がいつまでも建たない3つの理由

カテゴリ:ワールド

  • 過去2年間の共和党議会すら“壁”予算は通せなかった
  • 大統領も民主党も負けられない政治ゲームに
  • 派手に立ち回ることで忘れてほしい「ロシア疑惑」 

大統領と民主党のねじり合い

「国家の危機」だと会見するトランプ大統領

“トランプの壁”をメキシコ国境に建設する予算をめぐる大統領と民主党のねじり合いが続いている。

事態を複雑かつひっ迫させているのは、連邦政府機関の一部閉鎖とリンクしていることだ。閉鎖期間の最長記録更新は目前で、政府職員の給料支払いや税金の還付、社会保障給付などが滞り、悪影響は加速度的に拡大中だ。家計のキャッシュフローに余裕がない弱者が、この政治ゲームの最大の被害者だが、トランプ大統領は「閉鎖は何ヶ月も何年も続く!」と息巻いている。民主党も“壁”予算は断固拒否の姿勢を崩さない。なぜ、こんなにこじれているのか?

「誤りで悪意すらある」と会見する民主党議会指導者

最初に確認しておきたいことは、“トランプの壁”の予算は、与党共和党が上下両院で多数を握っていた過去2年の間も認められていないという事実だ。上院では院の規則により、5分の3(議員60人)の同意がなければ予算案(法案)の採決には進めない。過去2年、共和党の勢力はギリギリ過半数の51人で、“壁”予算の採決には野党民主党の議員9人を説得しなければならず、それは夢のまた夢だった。

1月3日に始まった新議会では状況はさらに厳しい。トランプ大統領が昨秋の中間選挙で「歴史的な大勝利だ!」と誇って見せた共和党の上院の勢力は53。“壁”予算を通すにはまだ7人足りない。加えて、下院は逆転され、野党民主党が過半数を握っている。

普通にやっていたら“壁”予算が認められ、誰もが覚えている選挙公約を果たせる見込みはない。『ならば、普通じゃなくやればいい』そう考えるのがトランプ流だ。

そして今の泥沼状態に至っている。“トランプの壁”予算のために政府機関の閉鎖を人質にとる。「国家の危機」「人道の危機」と犯罪被害などをことさらにアピール。大統領執務室からゴールデンタイムに全米向けテレビ演説。そしてメキシコ国境へ直々の視察で猛アピールを企てる。などなど。

トランプが最も嫌う言葉『ルーザー』

国境の壁サンプルの視察をするトランプ大統領

なぜ、そこまで頑張るのか?

トランプ大統領が2020年に再選されるためには、押して押して押しまくるしかないからだ。たとえ成果が出なくても、攻めて攻めて攻めまくる姿勢を見せることがプラスになる。その意味で、誰もが強烈な印象とともに覚えている公約“トランプの壁”を放置する訳にはいかない。いかなる形の妥協も敗北と受け取られかねない。敗北者=ルーザーは、トランプ大統領が最も嫌う言葉だ。

一方の民主党もここで後ずさりはあり得ない。過去2年間、“トランプの壁”を阻止してきたのに、下院を奪取した直後に“壁”を認めるなんて支離滅裂だ。しかも民主党は、共和党が怠ってきたトランプ大統領に対する議会の『チェック・アンド・バランス』機能をしっかり果たすと公言している。ここで仕事ができることを示さなければ2020年の勝利は覚束ない。

それに政治に働く力学はいつも作用・反作用だ。大統領が強く出れば民主党の抵抗も劣らず強くなる。どっちも負けられない政治ゲーム。だからデッドロックに陥る。

『ロシア疑惑』を忘れさせるために

だが、トランプ大統領にとってみれば、デッドロックで不満はないはずだ。勝ち目がないゲームで次善は何かといえば、負けないことだが、そのプロセスで闘う姿を見せて「これぞ俺たちのトランプだ!」と喝采させることが大事だ。さらに相手の評判を落とし余計に貶めること。それによって自らを相対的に勝っていると見せることができる。

デッドロックだと分かっているから安心して、普通ではあり得ない手も打てる。
・メキシコ国境の現況が『国家非常事態』を宣言するようなものなのか? そうだ。目を見開いてよく見てみろ!
・非常事態宣言で国防予算から“壁”建設費をねん出するのか? そうだ。アメリカとアメリカ国民を守るためなら何でもやる!
・民主党は訴訟を起こして抵抗するが? かまわない!どちらがアメリカのためを考えているか、最高裁まで行こうじゃないか!

遅かれ早かれ、連邦政府機関の閉鎖は解除しなければならない。いつまでも続けていたらトランプ大統領と共和党にとっても大きな傷になる。その場合に負けたと受け取られないようにする『あり得ない手』。それが『国家非常事態宣言』だろう。そういうシナリオだから8日のテレビ演説では宣言をしなかったのだと考えられる。

そして、“トランプの壁”をめぐる騒ぎで、大統領は下院民主党の疑惑追及の機先を制していることを認識すべきだ。1月3日に始まった会期は、トランプ大統領がリードする形で“壁”にスポットライトが当たり、ロシア疑惑などの疑惑追及の動きは後景に紛れている。

トランプ大統領の再選にとって最大の障害はロシア疑惑だ。2月にはムラー特別検察官の捜査報告書が提出されるのではというタイムフレームも取りざたされる中、大統領が繰り出す注意拡散のためのカードは、“壁”、国家非常事態宣言、米朝首脳会談、米中貿易戦争、日米貿易交渉、などが待機中だ。

そんなふうに意識することが、トランプ大統領と民主党議会の政治ゲームを一層楽しむ方法だと思う。

(執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋)

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