「必要なのは“エラー”を起こす社員」昆虫に学ぶ組織論 経済学者・安田洋祐

FNN.jp編集部
カテゴリ:ビジネス

  • 子孫を残すこと=業績を伸ばし、会社を存続させること
  • 昆虫は突然変異で進化。今、稼げる企業はイノベーションを起こす企業
  • 新しい発想やアイデアを尊重する空気を作る

判明しているだけでも100万種類以上が生息し、地球上で存在する生物種の半数以上を占める昆虫。私たちにとって身近な存在ではあるものの、まだまだ謎に包まれている部分も多い。

その知られざる能力や生態、多様性を解説する「特別展 『昆虫』」が東京・上野の国立科学博物館で開催中だ。

今回は、この展示を鑑賞した経済学者の安田洋祐さんに、昆虫の進化の過程から、日本企業が成長するためのヒントを教えてもらった。

(聞き手:新美有加アナウンサー)

企業の成長には試行錯誤が必要

新美:
特に印象に残った昆虫はいましたか?

安田:
約3億年前に存在したという大トンボ“メガネウラ”。羽を広げると70センチもあったそうで、こんなに大きいものが空を飛んでいたのかと驚かされました。規格外に大きいことだけじゃなく、尻尾のあたりが複雑に枝分かれしていた点も興味深かった。

それまで僕は、昆虫は単純な造形から始まって、複雑に進化していったと思い込んでいたんです。

新美:
トンボ自体の形はトンボの祖先と言われているメガネウラから現在まで変わっていないように見えますが、祖先と比べると現在のトンボたちはシンプルになった印象があります。

安田:
いろいろなタイプの昆虫が展示されていましたが、それぞれの形態や器官を見ていると、子孫を残すためにそれぞれ進化していったのだと感じました。

新美:
子孫を繁栄させるためには、同種や外敵との競争を戦い抜かなくてはいけないから、そのために進化を遂げたということでしょうか。

安田さんは、人の駆け引きを分析する“ゲーム理論”を研究されていますが、昆虫の進化と重なるところはありますか?

安田:
実は、生物進化を分析する有力なツールとして、すでに70年代から「進化ゲーム理論」が使われているんです。ただし、人が戦略的にゲームを進めるのとは違って、昆虫などの生物は進化するために自分の形質自体を直接変えることはできません。戦略は形質として遺伝的に決まっているのです。

そうやって生存に有利な形質は子孫を増やすことができた。ただし、たまに全く新しい形態が突然変異によって生まれ、それらが同じ種の中でも子供をたくさん残せるようになった。そういう突然変異を繰り返しながら、昆虫はどんどん進化していったのだと思います。

新美:
昆虫の突然変異を経済学に置き換えるとどうでしょうか?

安田:
ビジネスの世界で言えば、「子孫を残すこと=業績を伸ばし、会社を存続させること」です。そのために必要なのは、同じことをし続けていてはダメで、戦略や考え方を変える、つまり、試行錯誤することが大事だと思います。

新しいことにチャレンジする場合、最初は大体失敗するのですが、たまにうまくいくことがある。それが新しいスタンダードを生み出す。昆虫は頭で考えて試行錯誤することはないので、外的要因などによって突然変異してきましたが、人間は自発的にしないといけない。

新美:
試行錯誤することで会社を存続させることができるのでしょうか?

安田:
そうですね。昆虫は、突然変異しなかった種もいるかもしれませんが、ほとんどが絶滅していると思います。環境が変わると耐性が低くなるので、変化しなければ生きながらえない。

常識から抜け出せない世代は淘汰される

安田:
最近、経済の世界を中心に“イノベーション”という言葉がよく使われます。新しいサービスや商品を提供することですが、そのためには、試行錯誤しないといけない。人間は頭で考えることができるために、これまでと違うことをすると失敗すると思い込み、新しいことをしなくなってしまう。

環境が変わらなければ、それでいいのかもしれませんが、変わった時、新しいものに勝てずに淘汰されていきます。人間の場合、若者はどちらかというとフレキシブルなので対応できますが、上の世代は従来の常識から抜け出せず、ビジネスモデルが変わった時に対応しきれない。

新美:
私は今年4年目なのですが、後輩に対しても考え方の差を感じることがあります。すでに私も考えが硬直していっているのかと(笑)。

安田:
学問の世界では時折、ものの見方や学説が変わる“パラダイムシフト”が起こります。それは突然起きるように思われていますが、実はそうではなくて、新しい学説が出た時に飛びつくのはだいたい先入観のない若い学者です。

年配の学者は、新しい学説をなかなか信じようとしないので、それがすぐにメインストリームになることはない。結局、数十年経って、若い世代の年齢が上がっていき、年配学者がどんどん減って、新しい学説がスタンダードになる。

人間は頭で考え、学習ができるため優秀だと思われていますが、案外考え方はすぐには変わらないんですよ。

新美:
考えるということが進化の足かせになっているのでしょうか。

安田:
足かせになるとすれば、人間は新しい考えを封じ込めることができる点ではないでしょうか。新しい考えを認めず、試行錯誤できる場がないということは、組織や社会の中で失敗を受け入れていないということです。

時代の寵児と言われる人は、だいたい最初は変人と言われていますよね(笑)。日本に閉塞感を感じるのは、新しいことをしようとする人の足をひっぱる人がいるからだと思います。

日本はものづくりビジネスで勝ちすぎてしまった

安田:
でも、今日本を代表する大企業ももともとベンチャーでした。50年前、100年前は新しいビジネスをやっていたけれども、日本全体でそれがだんだん良いこととされなくなってしまった。

新美:
多くの企業が過去に築いたビジネスモデルに固執しているからでしょうか? 

安田:
そうですね。だから、これから大切なのは大企業や大学が、新しい発想やアイデアを尊重する空気を作ることだと思います。当たり前のように今までと同じことをしていてはゆるやかに失速していく。すると、いつか絶滅種として日本型経済モデルが紹介されることになるかもしれない。

この問題は日本だけでなく、世界中がいま、イノベーションを生み出すためにどうしたらいいのかということに頭を悩ませています。

新美:
生き残るためには、今までにない発想を受け入れ、新陳代謝をする必要があるということですね。

安田:
日本は長年、"物理的なものづくり"が強いと言われてきましたが、今は何を作れば売れるのかがわからなくなってきています。70〜90年代くらいまでは、いくつもの分野でチャンピオンになれました。ですが、それに慣れ過ぎてしまったため、新陳代謝を生まない組織が増えた。

今、世界で稼げる企業は、イノベーションを生み出す組織です。日本のものづくりが強くなって、アメリカを追い越して行った90年代以降、アメリカはソフトウェアを作る方に思考を切り替えて、イノベーションを追求していた。その代表的なものがグーグル、Facebookやアマゾンです。

新美:
日本は、ものを作るというビジネスで勝ちすぎてしまったため、その考えから抜け出せない。

安田:
昆虫は自分の意思ではなく、突然変異するようにプログラミングされているから、どんどん進化していける。日本にも突然変異といいますか企業に自由な発想を持つを“エラー”を起こす社員はいたはずです。でも、彼らが新しい企画や案を出しても、成功事例からはみだしているからはねられてしまった。

企業がこれまでのビジネスにこだわり続けてきた結果、気づけば日本全体がまずいところにまでさしかかっている。だから、昆虫から学ぶことはたくさんあるんですよ、日本の組織は特に。

●「出世する人は一つのことを追求しない」安田洋祐が説くビジネスマンの生存戦略
https://www.fnn.jp/posts/00345970HDK

安田洋祐
経済学者|大阪大学准教授 専門はゲーム理論、マーケットデザイン。フジテレビ「とくダネ!」・関西テレビ「情報ランナー」・読売テレビ「ミヤネ屋」コメンテーター

◆特別展「昆虫」は国立科学博物館にて10月8日(祝・月)まで開催中
セイボウの新種(未記載種)に来場者の名前をつけるネーミング企画は8月12日(日)まで募集
http://www.konchuten.jp/special.html

◆ARアプリで昆虫に変身
会場でスマホでQRコードを読み取って、オリジナル写真&動画を撮影できます。
(※Facebookアプリの最新版が必要です)

◆8月11日(土)「モノシリーのとっておき 夏休み特別編」
特別展「昆虫」の大特集を、昼1時35分からフジテレビで放送予定

(文・浦本真梨子)