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思い出のプールに泳ぐサメ。廃校を水族館にした過疎の町の逆転劇

FNSドキュメンタリー大賞2019

電車も通らない海沿いの小さな港町・高知県室戸市。深刻な人口減少に悩まされている町が今、全国から注目を集めている。

過疎で生まれた廃校を活用した「むろと廃校水族館」。

かつて子どもたちが遊んだプールに、サメやウミガメが泳ぐこの水族館は、1年あまりで市の人口の10倍を超える20万人が来館する人気施設に成長した。

むろと廃校水族館

今や全国の議員がこぞって視察に訪れ、海外のメディアも注目するこの施設。

しかし完成するまでには、「無駄な投資」「観光客を誘致できるはずがない」といった、市議会や漁師たちからの反対の声もあったという。

ウミガメが大好きな名物館長の奮闘を支えた市長や、その情熱に心を動かされた地元の漁師たち。「廃校水族館」を巡る、町の人々の思いを追った。

廃校を蘇らせた水族館

過疎化により小学校の廃校が相次ぐ室戸市

電車も通らず、高速道路もなく、県庁所在地から車で2時間半という立地条件の小さな港町に、2018年小さな水族館がオープンした。

県外ナンバーを見ることすら少ない町は、ゴールデンウィークに大渋滞。多くの人を集めた水族館が『むろと廃校水族館』だ。

全国で少子高齢化が進み、年間500校が廃校となっていく中、室戸市も例にもれず、16個あった小学校のうち10校が廃校になった。

室戸市は1874年から132年にわたって地域の子どもたちを見守ってきた椎名小学校を改修し、2018年4月、水族館として見事に蘇らせた。

25mプールは大型水槽。サメやウミガメが泳ぐ

25メートルプールに泳ぐのは子どもではなく、シュモクザメやウミガメ。大きなジンベエザメやペンギンがいるわけではなく、サバの稚魚、フグ、トラウツボ、ヒラメなどが元気に廃校の中を泳ぐ。

食卓に並ぶような魚も大水槽を我が物顔で泳いでいる。

この廃校水族館の一番の特徴は、小学校をそのまま残したことだ。

跳び箱に金魚。壁には日本地図

跳び箱には金魚がいて、手洗い場は貝などを触れるタッチプールとなっている。

身体測定に使う身長計や、小学校の部活で使っていた将棋盤で遊ぶ子どもたちの姿もある、不思議な空間だ。

夏休みには宿題に追われる子どもたちのために館内を開放し、家庭科室では水族館らしからぬ魚をさばくイベント。さらには干物を販売するイベントまで。

そんな空間を作り上げたのが、廃校水族館の仕掛け人・若月元樹館長だ。

「プールでウミガメ飼ってもいいですか?」

ウミガメの様子をうかがう廃校水族館・若月元樹館長

日本ウミガメ協議会の理事も務める若月さん。

若月さんは、沖縄大学1年生の時にウミガメの産卵に遭遇したことをきっかけに、ウミガメの魅力にはまったと話す。大学卒業後、一度はサラリーマンとして働くも、29歳の時にウミガメと生きることを決断。NPO法人日本ウミガメ協議会に入った。

室戸から1400キロ以上はなれた沖縄・八重山諸島の黒島で、協議会が運営する『黒島研究所』の職員として勤務していた若月さん。

ここにはウミガメ研究の成果を伝えるための展示室があり、ウミガメをはじめとする黒島の動物たちを飼育展示していて、島の一大観光施設となっている。

2015年、当時の室戸市長がこれに目をつけ、若月さんに相談した。

室戸市には日本ウミガメ協議会の資料置き場があった

協議会は、室戸市で使用しなくなった診療所に資料を集めていたが、手狭になっていた。そのため「廃校になった小学校に資料を置いて、さらに水族館にできないか?」という市長の申し出を快く受け入れ、「プールでウミガメ飼ってもいいですか?」と質問で返したという。

市長は快諾し、廃校水族館の準備が始まった。

しかし、とにかく資金が必要な水族館。来年四国でオープンする2つの水族館が総工費数十億にのぼる中、廃校水族館にかけられる予算はたった5億円だった。

その上、室戸市議会や市役所の職員は大反対。
その理由は深刻な人口減少だった。市が誕生した1959年には3万人を超えていた人口が、現在半分以下の1万3千人になり、2018年には病院までも閉院。

議会からは、「無駄な投資」「観光客誘致に効果を上げないナンセンスな事業」という厳しい声があがっていた。

予想を覆し、1年で20万人を集めた

水槽の中に巨大なアオウミガメが泳ぐ

しかし若月さんには自信があった。なぜならローコスト水族館を作るための“廃校”という武器があったからだ。

廃校を全面に押し出し、ノスタルジックで楽しいアイデアを次々に生み出した。

「あと10年は響くネーミングだろうと思って」と、名前はそのまま“廃校”水族館に。さらに学校の雰囲気が出るように、室戸のあちこちの廃校から剥がした掲示物を展示。

館長やスタッフの椅子も、教員や生徒が使っていたものを使用し、インテリア代を0円に収めた。

近所の幼稚園児たちも訪れる

オープンすると、当初4万人と設定していた年間来館目標はわずか3ヶ月半で達成。その後も順調に来館者は増え続け、オープンから1年余りで、室戸市の人口の10倍をゆうに超える20万人が来館した。

「うちの街も廃校をうまく活用したい」と全国の議員たちが視察に訪れ、運営費を、入場料とグッズ売上で賄う自立した運営に驚く。

雑誌や本にもたびたび取り上げられ、海外から CNN の記者も取材に来た。

さらに高知県産業振興計画賞・龍馬賞を受賞。廃校水族館は一躍話題の場所となった。

この若月さんの奮闘に応えていたのは、当初反対の声をあげていた地元の漁師たちだった。

地元漁師と一体となって作り上げる水族館

伝統的な漁法「大敷」で捕れた売り物にならない魚は水族館へ

廃校水族館にいる生き物たち、実はタダで手に入れている。

それは室戸で100年以上続く伝統的な漁法『大敷』のお陰だ。大敷とは水深75mに仕掛けた網を2席の船で引き上げ、ブリやサバを取る漁法だ。

廃校水族館のスタッフは、地元の漁師の協力を得て、売り物にならない魚やサメ、ウミガメなどをもらっているのだ。

釣り人から魚をもらうことも度々ある

79歳の安岡幸男さんも、廃校水族館に協力する漁師の一人。

ほぼ毎日水族館に来ているという安岡さんは、生まれも育ちも廃校水族館のある椎名地区だ。若い頃はマグロを追って南半球に繰り出すこともあったが、今では自分の小さな船で自由気ままに漁をして、売り物にならない魚を廃校水族館に持って行く。

「地元が協力しないとね。よそ者扱いしてたらやっぱり駄目ですよ。今ウミガメの連中(廃校水族館)に助けてもらっているからね」

そう言いながらこの日安岡さんが持ってきたのは、料亭でも使われるようなメダイ。こちらも水族館でいつでも見られるようになった。

漁師の安岡さんはこの日メダイを水族館に持ってきた

安岡さんが水族館に協力する一番の理由。それは過疎が進み、子どもたちがいなくなった室戸に、子どもの声を呼び戻してくれたことへの感謝の気持ちだという。

「子どもの声が聞こえないと元気が出ないもんね。うちの集落はこのままだと終わるから。元気であることは集落が続くということですよね。全部連動してると思います」


かつて反対の声もあった市議会では2019年3月、「廃校水族館のおかげもあり、室戸市が多くのメディアに取り上げられ、室戸市の観光客は増えました。期待しています」と、全面的に応援されるようになった。

ウミガメ大好きアイデアマンの手掛けた水族館が、地元漁師の心意気で奇跡をおこしている。

高知でよく食べられるボラも水槽に

安岡さんは、「何か変化をもたせながら続けていかないといけないよね。少なくともこの形を続けていったら、私みたいにほっこりするという人はいるんじゃないかな」と笑顔だ。

若月さんは一方で気持ちを引き締めていた。

「これから真価が問われる時だと思うので、ブームで終わらないためにも、これまで通り楽しく、長く続けられるように、支持されるように頑張りたいと思います」

若者が減り、過疎の波に飲まれる室戸市で、廃校水族館は地域一帯の希望の光となっている。