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安倍首相の強いこだわり 中東訪問決行までの舞台裏 民族衣装着た会談で結実

カテゴリ:ワールド

  • 情勢緊迫の中…“今だからこそ行くべき“首相の決断の背景
  • 決行のカギは首相自身の意欲とトランプ大統領の会見
  • 米・イランと独自の友好関係築く日本の役割は

情勢緊迫化の中での中東訪問では民族衣装も

1月11日、安倍首相はアメリカとイランの対立で緊張が高まる中東への外遊に出発しました。訪問国は、イランと敵対している中東の大国サウジアラビアと、アラブ首長国連邦・オマーンの3カ国で、現地時間12日にはサウジアラビアのサルマン国王、ムハンマド皇太子と相次いで会談しました。

サウジアラビアのサルマン国王との会談

安倍首相はムハンマド皇太子との会談では現地の民族衣装を着る場面もありました。そして「イランを含む中東地域での軍事衝突は地域のみならず世界の平和と安定に大きな影響を及ぼす」と指摘。ムハンマド皇太子も「この地域の緊張は、世界全体に悪影響を及ぼす。当事国間の対話が必要不可欠だ」と応じ、両首脳は「中東地域の緊張緩和と情勢の安定化に向けて関係国が力を結集すべきだ」との認識で一致しました。さらに安倍首相は、昨年末に閣議決定した日本独自の自衛隊の中東派遣について理解を求め、支持を得ました。

安倍首相とムハンマド皇太子

実は今回の中東訪問は安倍首相自らが希望していたものとされます。しかし年明け早々のアメリカ軍によるイラン革命防衛隊の司令官殺害と、イランによる報復攻撃により、本格的な軍事衝突の懸念が強まったため、政府は首相の中東訪問を中止する方向で動きました。

こうした情勢の中にあっても安倍首相は、予定されていた中東訪問を決行するに至ったのですが、当時の官邸周辺の出来事などを取材し振り返ると、訪問決行のいきさつと、安倍首相の中東訪問に対する強い思いが見えてきました。

イラン司令官殺害の一報は、「仇討ち」映画の鑑賞直前に

アメリカ軍によるイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害が発表されたのは、日本時間1月3日のことでした。この日、安倍首相は正午すぎから都内で時代劇コメディ映画「決算!忠臣蔵」を鑑賞していました。

首相周辺によると、ソレイマニ司令官の殺害の一報は映画鑑賞直前に伝えられたということです。その後、安倍首相は、映画鑑賞を終え「大変楽しく見させていただいた」と感想コメントを残しましたが、訪問をおよそ1週間後に控えた中東情勢のさらなる緊張が予想される報告後直後に「仇討ち」に関するコメディ映画を鑑賞する心中は複雑だったかもしれません。

ソレイマニ司令官の追悼式典

外遊直前に駆け巡った“中東訪問延期”報道

ソレイマン司令官という英雄が殺害されたことに対するイラン国民の怒りの反米デモが拡大する中、安倍首相は1月6日に仕事始めの年頭記者会見に臨みました。この中で安倍首相は中東情勢について「事態のさらなるエスカレーションは避けるべきであり、すべての関係者に緊張緩和のための外交努力を尽くすことを求める。先月イランのロウハニ大統領を日本にお迎えしたが、この地域の緊張緩和と情勢の安定化のためにこれからも日本ならではの外交を粘り強く展開する」と、沈静化への期待と、努力の意向を表明しました。

イラン国民の怒りの反米デモ

しかしながら1月8日の午前9時ごろ、イラン革命防衛隊がイラク国内のアメリカ軍駐留基地に十数発のミサイル攻撃を行ったことが報じられました。そして約2時間後の午前11時前、「安倍首相の11日からの中東訪問延期」との速報が一部メディアから流れたのです。

安倍首相の出発予定は3日後に迫っていました。時を同じくして官邸では、安倍首相を筆頭に麻生副首相、菅官房長官と外務・防衛の副大臣(茂木外相・河野防衛相は出張中)らが集まり、NSC=国家安全保障会議が開かれていました。

政府関係者によると、最新の中東情勢について安倍首相への報告が行われ、この時点では情勢の先行きが不透明であったため、“中東訪問取りやめ”といった意見も強かったといいます。

国家安全保障会議のため首相官邸に入る麻生副首相 1月8日

訪問中止発表に待った?官邸の舞台裏

そして会議後の菅官房長官の定例会見で、訪問とりやめが発表されるとの憶測が流れる中、会見で菅長官は、安倍首相から情報収集や外交努力に取り組み、不測の事態に備え万全の態勢をとるなどの指示が出たことを明らかにしました。一方で、首相の中東訪問については中止の発表はなく、「今般の事態も含めた現地の情勢、こうしたものを見極めながら判断してまいりたい」と述べるにとどまりました。

記者会見をする菅官房長官 1月8日

実はその時点では政府内でも、このタイミングでの訪問中止発表はなくても、いずれ中止が発表されるとの声が多く聞かれました。それなのになぜ訪問決行に傾いていったのか、そこには安倍首相の思いと、半日後に控えたトランプ大統領による記者会見をめぐる思惑があったといいます。

FNNの取材によると、「訪問中止」の一部報道を受けて、政府与党幹部が安倍首相に対し、トランプ大統領の会見前に中止を決めてしまっていいのか確認したところ、安倍首相は「その通りです、決めてませんよ」と応じたといいます。政府内が中止の方向で動く中でも、安倍首相自身は何とかして中東を訪問したいし、中止するにしてもトランプ大統領の会見を見極めてからでも遅くないという気持ちだったであろうことが見て取れます。

そして、トランプ大統領の会見まで数時間となった午後6時30分ごろ、安倍首相はイランによる報復攻撃を受けての見解を尋ねた記者団に対し、「さらなる事態の悪化を防ぐためにあらゆる外交努力を重ねたい」と述べ、訪問決行に含みを残しました。

中東訪問の決め手となった「トランプ会見」と「総理の思い」

トランプ大統領の会見

日本時間の1月9日午前1時、トランプ大統領による、イランによる米軍基地攻撃を受けての注目の会見が始まりました。これに先だってイラン側は、「攻撃により少なくとも80人の米国のテロリストが死亡した」と発表していましたが、トランプ大統領は会見で、「イランによる攻撃でアメリカ人は被害を受けなかった。死傷者は出なかった」と明かし、「軍事力は行使したくない」とイランへの報復攻撃には否定的な考えを示したのです。

このトランプ大統領の「被害者なし」「報復攻撃の否定」の会見から一夜明けて安倍首相は、「自制的な対応を評価するのが日本の立場」としたうえで「地域の情勢の緩和、安定化のために外交努力を尽くしていく」と訪問決行に重ねて含みを持たせました。

関係者が証言する安倍首相の「この状況だからこそ行く意味がある」

トランプ大統領の会見後、イラン側からもさらなる報復の動きはなく、アメリカとイランの全面衝突が当面避けられる方向となったのを見届け、政府は、出発前日の10日というぎりぎりのタイミングで、首相の中東訪問を決行することを正式に発表しました。安倍首相は翌11日の出発時に、次のように中東訪問の意義を説明しました。

記者団のインタビューに答える安倍首相 1月11日・羽田空港

「関係国の自制的な対応が見られる。こうした動きを地域の緊張の緩和、情勢の安定化につなげていくためには、さらなる外交努力が必要となる。今回訪問する、サウジアラビア・UAE・オマーンと、これまでの友好関係の上に、話し合いによる対話、自制的な対応を促し日本ならではの平和外交を粘り強く展開していく」

ある官邸関係者はこの一連の安倍首相の対応について「総理の外交センスの中で判断しているように感じた」と語った上で、安倍首相の中東訪問への決意を感じたと述べています。

「普通なら誰でも(中東訪問を)中止にした方が楽だと思う。でも総理はそうじゃない。この状況でまだ見守るという判断ができる総理はさすがだと思った。総理は一度も(訪問を)中止すると言っていない。この状況だからこそ行く意味があると判断したんだと思う」

そしてサウジアラビアでは、ムハンマド皇太子の別荘まで赴き、先方が用意したとみられる民族衣装まで着て緊密な連携をアピールし、イランとの融和を働きかけました。サウジ伝統のテントの中での異例の歓談も含め、安倍首相の訪問への意欲が結実した象徴的な場面となりました。

アメリカ・イラン・サウジと独自の友好関係築く日本の役割は

安倍首相の外交というとトランプ大統領との蜜月がクローズアップされますが、第2次政権発足以来掲げている「地球儀を俯瞰する外交」という点では、中東地域は日本のエネルギー調達源、そして日本産品やインフラの輸出先として特に重視されてきました。

またイランとの伝統的な友好関係も日本外交の強みとされ、アメリカがイランへの批判を強める中でも、安倍首相は昨年12月20日に、イランのロウハニ大統領を日本に招いて会談。その翌日、今度はトランプ大統領と電話会談をし、ロウハニ大統領の訪日の成果について説明をするなど、仲介で存在感を発揮しようとしてきました。

ロウハニ大統領から「日本の外交努力を高く評価する」と歓迎される一方、今回の外遊ではイランと対立するサウジの実質的な指導者との蜜月も演じた安倍首相。ただ中東情勢の緊張状態が続いていることには変わりないという中で、さらなる緊張緩和と情勢の安定化に向けてどのような役割を果たすのでしょうか。日本独自の平和外交という点で首相の外交センスがいかに発揮されるのか注目されます。

(フジテレビ政治部 総理番記者 亀岡晃伸)