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注射を怖がる子どもに「好きな歌をうたう」のはNG? 話題の投稿を医師に確かめてみた

カテゴリ:国内

  • 注射を怖がる子どもを歌をうたってあやしたら看護師に「よくない」と言われた体験談
  • 子どもが「トラウマ」を持ってしまう理由は?
  • 子どもが注射を怖がらないようにする方法を教えてもらった

「歌」がトラウマになる? 病院嫌いの子どもたちに…

「子どもの頃に怖かったもの」といえば、筆頭に挙がるのが注射だろう。
チクリとした痛みもさることながら、お医者さんの白衣や消毒液の匂いなど、独特の雰囲気も怖かった…という人も多いはず。

そんな中、こんな体験談がTwitterに投稿され、注目された。

「娘ちゃんを予防接種に連れてった時に、注射前で泣き叫ぶ娘ちゃんのために、森のくまさんを一生懸命歌ってたら看護師さんから『それはお子さんの好きな歌なの?』って聞かれて『そうなんです。』と言ったら『トラウマになるからやめた方がいいよ。』と言われて、中々子供心は奥が深いと思った。」


注射を待つ間、あるいは針が刺されている間、恐怖から泣いてしまったりパニックになったりする子どもたちも多い。
お医者さんや付き添いの親たちはそんな子どもたちの恐怖心を和らげようと、あの手この手で頑張っているのだろうが、投稿者は娘さんの好きな歌をうたって気を紛らわせようとしたようだ。

好きな歌に耳を傾けている間に嫌なことが済んでしまうのは子どもにとっていいような気がするが、なぜこの対応が「トラウマになってしまう」のだろうか。

千葉大学・子どものこころの発達教育研究センター長の清水栄司教授にお話を聞いた。

いけない対応ではない。ただ…

――「注射を怖がる子どもの気を歌をうたって紛らわせる」…どこがいけない対応?

いけない対応ではないと私は思います。むしろ好ましい対応です。
なぜならば、注射中に絵本を見せて子どもの注意をそらす、気を紛らわせる対応法は、distraction technique(ディストラクション・テクニック:注意そらし法)という名前で、日本の医療現場でも、利用されています。
注射(採血)の時にテレビやマンガを見せて注意をそらす場合のほうが、何もしない場合に比べて、痛みを弱く感じる効果があったと小児看護学の分野でのランダム化比較試験で報告されています。


――では、「トラウマになる」というのはどういうこと?


「恐怖条件づけ」
という学習理論の考え方がありますので、確かに、注射という恐怖を起こす刺激と『森のくまさん』の歌という恐怖を起こさない刺激を同時に提示すると、条件づけで、森のくまさんの歌を怖がるようになるということは理論的には考えられますね。


――「歌がトラウマになってしまう可能性」はあるけれど、正しい対応ということ?

はい、そうです。
科学的には、出来事の記憶に関しては「ピーク・エンドの法則」というものがあります。人間は、怖いとかうれしいとかの感情の頂点(ピーク)と終わり(エンド)で、その出来事を良かったとか悪かったとか大雑把に覚えるという法則で、出来事の途中の細かい過程で判断しているわけではないのです。

ピーク(頂点)で不快な痛みがあっても、エンド(終わり)で心地よい終わり方をすれば、それほど注射が嫌な記憶にならないというものです。「終わりよければすべて良し」で、注射の後で、お子さんにシールをあげて、よくがんばったね、とすごくほめてあげると、注射って、ちくっと痛いけれど、そこを乗り切ればご褒美をもらえる体験として記憶できるわけです。

また、社会的参照という現象もあり、視覚的断崖実験という有名な研究でもわかるのですが、お母さんがにこにこと楽しそうにしていると、子どもはそこまで怖がらないという現象も知られています。



清水教授によると、実はこの対応は問題なく、むしろ子供にとって好ましい対応で、注射中に気を紛らわせる・そらすことは痛みを減らすことに繋がるという。

ただ一方で、「歌がトラウマになる」という点で「やめた方がいい」と伝えた看護師さんの話も間違いではなく、恐怖を引き起こすもの(=注射)と、恐怖を引き起こさないもの(=歌)が組み合わさって、歌自体を怖がるようになってしまう可能性はあるという。

そこで清水教授が教えてくれたのが「ピーク・エンドの法則」で、注射の痛みという不快なことがあっても、終わり方が心地よいものであれば嫌な記憶は残りにくいそうなので、注射が終わった後には、よく頑張ったねと褒めてあげることが大事だそうだ。

そして、今回のような「歌」以外に、正しく気を紛らわせる方法についても聞いてみた。

子どもに「予習」をさせる方法

――有効な「気のそらし方」にはどんなものがある?

注意をそらすのは、注射のまさにその時に行うのが重要です。

1歳から3歳の場合、注射の直前に「病気にならないように、肩にちくっとお注射をしましょう」のような、簡単で具体的な説明をしましょう。やわらかいぬいぐるみのような気持ちを紛らわせることができるものを持たせて、注射の時は、歌・簡単な遊び・数を数えることなどで注意をそらしましょう。注射が終わったら、小児科や小児歯科でやってくれている場合もありますが、注射に協力してくれたご褒美にステッカー(あるいはおまけのおもちゃ)等をあげましょう。

3歳から5歳の場合も同様なステップが考えられますが、もしも、いろいろと想像しすぎて注射をこわがってしまうお子さんの場合に「怖がってはだめだ」とか「勇気を持つように」などの無理強いはしないようにしましょう。例えば、お子さんが、お医者さんごっこのような要領で、おもちゃの注射器でお子さん自身が医師や看護師になったつもりでぬいぐるみの肩にお注射をちくっとするような真似事をさせてあげて、がんばった良い子(ぬいぐるみ)にはご褒美をあげるような遊び(ロールプレイ)を試すのも良いでしょう。

このように、注射の前に、注射を「なぜ行うのかという理由」だけではなく、注射は「どのようなことが順番に行われ、どのような感じがするのか」をお子さんにわかる方法で説明して、お子さんが、それほど怖い行為がされるわけでないことを頭の中で納得できるようにして、不安や恐怖を和らげてあげると良いでしょう。お子さんに、医療行為の予習(準備)をさせることをプリパレーションといいます。

年齢に合った対応が必要

――たとえば、好きなお菓子を食べながら、好きなオモチャを持たせながらというのも、お菓子やオモチャを怖がるようになってしまう?

そのようには考えませんが、口に物を入れながら注射を受けると、誤嚥の危険がありますので、推奨できません。



そのほか、清水教授が「納得した」と挙げていたのが、話題となった投稿にリプライで寄せられた体験談。
その内容は、子供たちに普段から「病院やお医者さんは、痛いこと・熱・病気などを治してくれるヒーロー」と教え、病院や医者をプラスに意識づけする、というもの。

この方法で子どもたちが注射を怖がらなくなったという投稿者のあおみかん(@ao_mikan)さん。
他に「悪いことをすると注射をするよ」という声かけは「禁句」にしていたそうで、ついつい言ってしまいそうになる“脅し文句”だが、これはまさに「マイナスな意識づけ」に当たるものだろう。

病院の空気や注射の痛み、不快感もただ怖いものではなく、自分にとってプラスなことをしてくれる場所・人なのだという結びつけをすることで、子どもの安心感を導くことができるのだ。

話題となった投稿にもあったように、「奥の深い」子ども心。
病院が苦手…というお子様のいるご家庭では、こんなアイデアを実践してみてはいかがだろうか。