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「法律で体罰禁止」 指針案に戸惑う親たち…理想と現実のギャップを埋めるためにすべきこと

カテゴリ:国内

  • 厚労省が示した体罰の指針案に...母親たちから戸惑いの声
  • 制度と親の間に“意識ギャップ” 
  • 専門家「親の価値観が変わっていかなければならない時代の過渡期」

厚労省、体罰に関する指針案を発表

2018年3月に東京・目黒区で起きた船戸結愛ちゃんの虐待死事件などをきっかけに、しつけを名目とした児童虐待を防ぐため、2020年4月、親の体罰を禁止する「改正児童虐待防止法」が施行される。

これに先立ち、12月3日に厚労省の指針案が示されたが、まとめられた体罰の具体例としては…

・口で3回注意したけど言うことを聞かないので、頬を叩いた。
・大切なものにいたずらをしたので、長時間正座をさせた。
・友達を殴ってケガをさせたので、同じように子どもを殴った。
・他人のものを盗んだので、罰としてお尻を叩いた。
・宿題をしなかったので、夕ご飯を与えなかった。

罰則は盛り込んでいないが、身体に苦痛、または不快感を引き起こす行為は、どんなに軽いものでも体罰に当たるとされている。

制度と親の間に…意識ギャップ

厚労省の担当者は、「これは保護者を罰したり、追い込むことを意図したものではなく、子育てを社会全体で応援・サポートし、体罰によらない子育てを社会全体で推進することを目的としたもの」としているが、しつけと体罰の線引きの難しさに子育て中の母親たちからは、以下のような声が聞かれた。

・軽くても禁止なら、わたしには守れないと思います。(10歳と7歳と3歳の子の母親)

・スーパーでイヤイヤと寝転がったり、おもちゃを投げつけるなど、してはいけないことをした時だけ、しつけとしてたたくことがある。(2歳の子の母親)

・悪いことをしてゲンコツされるのと、親が八つ当たりで理由なく殴るのでは、見え方が同じでも全然違う。(11歳と9歳の子の母親)

・「体罰しない子育て」は、理想論でしかない。育児の負担を1人で抱え込まずに、家族で家事を分担…と言うのは簡単ですが、現実はそう簡単ではない。パートナーの長時間労働や、共働きしないと子どもを養えない環境が変わらないと、結局、何も変わらないのではないだろうか。(2歳と1歳の子の母親)

親が変わっていかなければならない時代の過渡期

こうした制度と親の間にある意識ギャップを埋めるためには、どうしたらいいのか?
ジャーナリストで東京大学大学院情報学環客員研究員、2児の母でもある、治部れんげさんにお話を聞いた。

ーー「しつけ」のためなら、「体罰」は許される?

子どもをたたくとか、ご飯を与えないというのは、親の感情であって、しつけとはまったく関係ないです。

「親の言うことを聞かせるためにたたく」という行為が、人権侵害だという認識が、多くの人にないと思われます。
30~40代の子育て世代の中には、親や教師にたたかれて育った人もいると思うので、「しつけ = たたく」と、誤解しているのではないでしょうか。

40年前、世界に先駆けて体罰を禁じたスウェーデンでも、当時は、制度と親の間に意識ギャップがあったそうです。
いまの日本も同じ状況にあると言えます。

職場でのセクハラやパワハラなどのハラスメントが、悪いことだと世間に認知され、一昔前に比べると少なくなっていると思われます。
「何がだめか」は、時代によって変化します。
つまり、「子どもへの体罰」も、親の価値観が変わっていかなければならない時代の過渡期にあると言えます。

「体罰禁止」だけでは変わらない…育児負担軽減もセットで

ーー制度と子育てする親の間にある意識ギャップを埋めるためには、具体的にどういったことが必要でしょうか?

日本の課題には、母親に育児の責任や負担が偏っていることが上げられます。
特に、教育虐待などは、母親が追い詰められている事例も多くあります。母親の負担を丁寧に拾っていくことをセットでやらないと、体罰を禁止するだけでは現状は変わらないと思われます。

具体的な改善策としては、自身の経験から、以下の2つが重要と感じます。

1. 親に子育てを学ぶ場所を提供するため、保育園の一時預かり拡充

母親だけが育児をしていると余裕がなくなってしまいます。
待機児童対策が優先されがちですが、主婦・主夫が一時預かりを利用できる枠を確保したり、保育予算を大幅に増額することが、体罰をなくすためには大事なことです。
育児負担が集中する核家族の主婦・主夫こそ、もっと保育園を利用できるようにすべきだと思います。
子育てを初めて経験する母親は、「子どもの育て方がわからない」というのが本音だと思うので、子育てのプロである保育士さんから学ぶことによって、親が落ち着くこともあると思います。

例えば、イヤイヤする幼い子どもに対して、「あ、あそこに鳥がいる」と声をかけて、気を紛らわしてあげるテクニックなどを保育士さんたちは知っていて、怒鳴らずに、叱らずに、子どもの気持ちを切り替えてあげることができます。
特に、都市部の核家族こそ、保育士さんから保育を学ぶといいのではないかと思います。


2. 母親のワンオペ育児の負担軽減を通じた環境整備

不要な体罰を減らすためには、まず母親の負担軽減が重要ではないでしょうか。
追い詰められてしまう要因として、子育てを1人でやっているケースが考えられます。
負担の偏りを改善するためには、誰かに助けてもらえる環境を整備することが大切になってきます。
配偶者や祖父母など、複数の大人が周りにいて手を借りることができれば、イライラ起因の体罰は減らせます。

具体的には、小さな子を持つ父親を、夕食の時間までに家庭に帰すようにするなど、企業側にも義務として、意識改革を求めたいと感じます。
特に、企業の忘年会は、育児時間に影響がないよう、就業時間内に飲んでいただきたいですね。

ーー子育て経験者として、アドバイスをするとしたら?

子どもが幼い場合は、子育てのタイムテーブルを一度忘れてみるというのも有効かもしれませんね。
「何時までに帰らなきゃいけない」、「何時にご飯を食べなければならない」、「何時までに寝ないといけない」といったことをやめると、子どもをせかしたり、怒鳴らなくてすみます。
そうすることで、子どもが自主的にできるようになる場合もあると思います。

また、家事の手を抜くことですね。
子どもにイライラするくらいなら、外食する機会を増やしたり、外注できる家事はお任せするなどして、母親の心の安定を最優先することも大切ではないでしょうか。

どのような子育てをしたら、わが子を正しい大人に導くことができるのか。
答えは1つではない難しい問題ではあるが、たたくより効果的な“しつけ”ができるよう、親の価値観や労働環境が変わらなければいけないタイミングなのではないだろうか。

(執筆:清水智佳子)


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