災害時インフラ最新情報

何気ない言葉が誰かを傷つけているかも 自分が自分らしく生きるためのLGBT教育

「ちがいをちからに変える」渋谷区の挑戦

カテゴリ:国内

  • LGBTに該当する人は11人に1人の割合
  • 東ちづるさんら制作「自分が自分らしく生きるために」を学校の教材に
  • 「ちがいをちからに変える」渋谷区の挑戦とは

11人に1人がLGBTに該当

東京都渋谷区では4年前、全国でいち早く「同性パートナーシップ条例」を施行するなど、LGBTの人権を守る取り組みを行ってきた。今月渋谷区は、女優の東ちづるさんらが制作したLGBT啓発用のDVD『自分が自分らしく生きるために』を区立の小中学校で活用すると発表した。

東さん:
「学校ではできることがたくさんあるんですね。逆に言うとできていないこともたくさんあります。制服や髪型とか、保健体育の時間、修学旅行、健康診断、プールや合唱団も、男と女に分けられています。でも、いろんなことが『強いられている』と感じている生徒が、たくさんいるんですね」

女優の東ちづるさんは、小中学校で教員や児童・生徒がLGBTを学ぶ意義をこう語った。

「3つの性」「セクシャルマイノリティ」という言葉がいま、徐々に社会に浸透している。

電通ダイバーシティ・ラボによると(2018年調査)、LGBTに該当する人は8.9%で、11人に1人の割合だ。学校で言えば、40人クラスに平均3~4人いる計算になる。一方、そのうちいじめの経験がある人は、約7割と言われる。間違った知識や偏見、何気なく使っている言葉が、いまも誰かを傷つけ苦しめている。

震災をきっかけに立ち上げた「まぜこぜ」集団

女優として活躍している東ちづるさんは、一般社団法人Get in touch(ゲットインタッチ)の代表としての顔をもつ。

東さん:
「Get in Touchは誰も排除しない、個を大切にする『まぜこぜ』の社会を目指しています。音楽、アート、映像、舞台などエンターテインメントを通じて皆が集まって。多様性を目指すのでは無く、『多様性に気づいていない』ということを、『見える化』する活動をしています」

東さんがこうした活動を個人的に始めたのは27年前。そして東日本大震災をきっかけに、Get in Touch を立ち上げた。メンバーは様々な職種を持つプロボノ集団だ。

東さん:
「日本はなかなか縦割りの社会で、支援団体や福祉施設、企業のブリッジが無いんですね。だからこうした組織をつなげながら、超党派の政治家や省庁ともつながって活動をしています。みんなが幸せになりたいんですから」

LGBT教育は人権・命の教育

東さんがLGBTを題材にした映画『私はワタシ ~over the rainbow~』の製作に乗り出したのは4年前。セクシャルマイノリティの当事者に、東さん自身がインタビューを行った。

はるな愛さんやピーターさんなど総勢50人が、マイノリティとしての苦悩や葛藤、希望について、あるときは感情を抑えながら、あるときは赤裸々に語る。筆者も映画を観たが、画面からはひりひりするような想いが伝わってきて、観る者の心を打つ。

映画『私はワタシ~over the rainbow~』の中でインタビューに答えるピーターさん

東さん:
「インタビューしたほとんどの人が、『子どもの時に大人になるのが怖かった』と言うのを聞いて衝撃を受けました。『この人生が続くならリセットする方がましだ』と自殺未遂をした人もいた。いまもそうでしょう。子どものいじめの背景にも、そういうことがあるだろうと言われていますよね」

平成27年に文部科学省は、『性同一性障害の児童・生徒に対してきめ細かな対応するように』と全国の学校に通知した。しかし、

東さん:
「先生が教わっていないことを教えるのは難しいし、デリケートなので保護者の反応が怖いと先生が考えるということもあります」

そこで東さんが考えたのが、映画『私はワタシ~over the rainbow~』の映像を編集して教材として学校に配布することだった。それが冒頭に紹介したDVD教材『自分が自分らしく生きるために』だ。

東さん:
「LGBTの理解や啓発を目的とした教材は多くありません。『では学校で使える映像資料を作ろう』と思い、このDVDを作りました。映像は教師と保護者に先に観てもらい、『子どもたちに見せたいね』となれば授業で使って、見終わった後にはどう思ったか必ず教師と生徒で話をしてほしいと思います。LGBTの教育は、人権・命の教育なのです」

映画『私はワタシ~over the rainbow~』の中でインタビューに答える松岡さん親子

「ちがいをちからに変える街」

渋谷区の長谷部健区長は、渋谷区としてなぜこうした取り組みを行っているのかを語る。

長谷部区長:
「渋谷区は『ちがいをちからに変える街。渋谷区』を20年先のビジョン、基本構想としてもっていますので、すべての施策は基本構想のもとに動いています。都市として多様性を尊重することは重要ですし、街の成長の大きな力になると思っています。これまでも『教育分野でも子どもたちにいろんなことを知ってもらいたい』と、(LGBTの)当事者の話を聞いてもらったりしました。渋谷区が同性パートナーシップ条例を発効して、世の中が変わったことを子どもたちに理解してもらいたい。DVDで多様な価値観に触れるのは良いことだと思います。教育現場で観てもらい、子どもたちと意見交換をしてもらいたい。そんなことを願っています」

渋谷区の教育現場では、すべての小中学校で教員が当事者の話を聞いたり、自分の性に悩んでいる児童だけでなくその子の親も含めた相談機能の確立を目指している。 また渋谷区では、「自分はスカートよりズボンを履きたい」という女子生徒が制服を選択できるよう、三つの制服を準備している。

渋谷区教育委員会の豊岡弘敏教育長は、「教育の力、教育でできることを進めていく」と言う。渋谷区では既に18の小学校と8つの中学校すべてにDVDを配布した。

豊岡教育長:
「DVDは使いたいときに使えて、継続的な学習展開を図れます」

渋谷区では3種類の制服から選択できる

相互理解、寛容、多様な性を考える道徳授業

既にDVDを使って道徳の授業を行っている渋谷区立広尾中学校の山本茂浩校長は、生徒や保護者の反応をこう語る。

山本校長:
「今年5月にLGBTの当事者を講師として招き、中3を対象に授業をやってもらいました。9月には全校生徒200人を体育館に集め、DVDを使って相互理解、寛容、多様な性について考える道徳の授業を行いました。初めてLGBTについて授業を受けた1,2年生からは、『考えたことが無かった』『自分とは関係ない人の話だと思った』という声がありました。一方5月に授業を受けた3年生は一つの個性として捉えていました。『やったことが結果として結びついてくる、成長していくんだな』と思いました」

LGBT教育について豊岡教育長は、「渋谷区の地域性がある」とことわりながらもこう語る。

豊岡教育長:
「一部の学校で年に1回、道徳の授業を保護者や地域の人たちに公開し、その中でLGBTの当事者に来てもらう取り組みをしています。区に寄せられる意見にも『反対』とか『やりすぎだ』という声は全く無く、逆に『一緒に学ぼう』と保護者が研修に参加しています」

多様性を認め合うことを学ぶのが学校

東ちづるさんは、こう言う。

東さん:
「全国で徐々に広がりつつありますけど、濃淡があると思います。すごく進んでいるところとまだ立ち止まっているところがあるなあと」

DVDは1000枚作成し、うち900枚は既に全国の小中高校に送った。

東さん:
「幼稚園でも見たいという予想外の反応がありました。幼児の中にはスカートを履きたくないという子がいて、幼稚園から親にどう話したらいいかわからないと言ってきました。また、医療関係者や大学からも依頼がありました」

多様性を認め合う社会は強い。
知ることによって見えた課題を、皆で力を合わせて乗り越えていく。

こうしたことを学ぶのが学校なのだ。

【執筆;フジテレビ 解説委員 鈴木款】

「世界に負けない教育」すべての記事を読む