災害時インフラ最新情報

“つぎはぎだらけ”の改革でも「身の丈」発言で民間試験導入を止めるな

待ったなしの大学入試英語改革

カテゴリ:ワールド

  • 萩生田大臣の「身の丈」発言にざわつく永田町
  • 2021年から「思考力、判断力、表現力重視型」の共通テストを開始
  • 新たに大学入試に導入される民間試験の「不公平問題」とは

「身の丈」発言にざわつく永田町

「国民、特に受験生の皆さんに対して不安や不快感を与えることになってしまったと考えており、改めておわびを申し上げる」
萩生田光一文部科学相はきょう、自身の「身の丈」発言についてあらためて謝罪し、発言を撤回した。

先週萩生田氏はBSフジの番組で、大学入学共通テスト(以下共通テスト)で導入される英語の民間試験について、「受験生の経済状況や地理的条件によって不公平にならないか」との問いにこう答えた。

「それ言ったら、『あいつ予備校通っていてずるいよな』と言うのと同じだと思うんですよね。だから、裕福な家庭の子が回数受けて、ウォーミングアップができるみたいなことは、もしかしたらあるかもしれないけれど、そこは、自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえば」

この発言がネットで伝わると、受験生などから不公平を容認した発言だと批判が集中し、萩生田氏は謝罪に追い込まれることになった。しかし野党は「許しがたい発言だ」と、辞任要求も含め国会で厳しく追及する構えだ。

厳しく追及する構えの野党

なぜ大学入試に民間試験が導入されるのか

「身の丈」が言葉として適切かどうかの判断は、読者の皆さんに任せたい。

むしろ私が憂慮するのは、この発言で日本の大学入試と英語教育改革が、さらに後退しないかということだ。そもそも「身の丈」発言の背後にある「不公平問題」がなぜ起こっているのかを、あらためて考える必要がある。

来年度から日本の教育は、「受け身から主体的な学びへ」と大きく変わる。その目玉となるのが大学入試改革だ。現行のセンター試験は廃止され、「思考力、判断力、表現力重視型」の共通テストが2021年1月に実施される。

共通テストはマークシート方式を見直し、記述式問題が増えるので、受験生や教育関係者はその対応に大忙しだ。

中でも英語は、現行の2技能(読む、聞く)から、4技能(読む、聞く、話す、書く)評価に変わる。文科省はこの狙いを「英語コミュニケーション能力と『受験英語』がかい離しているため」とした。そしてこれまでの試験では4技能評価に対応できないため、代わりに導入されるのが民間試験なのだ。

しかしこの制度を巡っては、受験生の経済状況や地理的条件によって不公平が生じるのではないかと批判の声が上がり、制度設計は迷走を繰り返してきた。

今年7月には試験候補の一つだった「TOEIC」の実施団体が、「責任を持って対応を進めることが難しい」と参加を辞退。また、9月から日本英語検定協会の「英検」の予約申し込みは始まったものの、実施計画の詳細がまだ決まっていない試験もある。

結局、導入される民間試験は、「ケンブリッジ英語検定」「英検」「GTEC」「IELTS」「TEAP」「TEAP CBT」「TOEFL iBT」の7種類となった。英検やTOEFL以外は馴染みのない読者も多いと思う。ケンブリッジ英語検定やIELTSはイギリス系、TEAPは日本英語検定協会、GTECはベネッセが運営する。

文科省は25日、英語民間試験の利用を決めた大学は全国で約6割だと発表した。来年度の導入を控えてやっと各大学の対応状況を把握できるようになったのだが、文科省の対応が後手後手に回っている感は否めない。

「身の丈」発言の背後にある「不公平問題」とは

では、受験生の経済状況による不公平とは何か?

試験の受験料を見ると、TOEFLの受験料は、1回当たり約2万5000円(一部受験生には15%引き下げ)。英検は準1級だと9800円だ(一部減免)。これを最低2回受験することになると、経済的に厳しい家庭への負担感は大きい。また、地理的条件についてみると、英検以外の試験会場は都市部に集中する傾向がある。

都市部の受験生なら問題ないが、地方の受験生は一泊二日で受験せざるを得ないケースがあり、こちらも家庭に負担が重くのしかかる。

公立高校の中心的組織である全国高等学校長協会の関係者は、民間試験の導入についてこう指摘する。

「東京はいいのですが、地方でこの試験を受けることは相当なハンディがあります。たとえば県庁所在地でしか試験がないと、子どもによっては自宅から会場まで2時間かかるなど、地域間の格差があるわけですよ。さらに、受験料は安いもので5千円、高いものなら2万5000円かかるわけですから、この試験を何回も受けるとなると経済的な負担が重いわけです」

こうした指摘をうけて文科省が行ったのは、試験の受験期間と回数の制限だ。受験生が志望大学に送る試験結果は、高校3年生の4~12月の8か月間で、2回までに制限された。

萩生田氏の「自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえば」との発言は、このことを指して言ったのだ。

また文科省は、経済的に難しい家庭の受験生や地方に住む受験生の「救済措置」として、各実施団体に受験料の引き下げや受験会場数の拡大を要請している。さらに自治体には、受験生が負担する交通費などを支援する場合、半分を補助することを決めた。

「つぎはぎだらけ」でも、改革を止めてはいけない

民間試験には野党から早期導入に反対する声が上がっている。立憲民主、国民民主、共産、社民の4党は24日、公平な受験環境を整えるべきだと、導入を延期する法案を衆議院に提出した。また、全国高等学校長協会は9月、 「先の見通せない混乱状況」として導入延期と制度見直しを文科省に求めた。

これまで述べたように、民間試験の導入は、「つぎはぎだらけ」で設計されている。

受験の期間や回数制限にしても、その間に富裕層の受験生は何回でも受験できるので、不公平の是正といっても論理的に破たんしているのだ。

さらに「ガラパゴス英語」と呼ばれ、海外で資格として通用しない日本独自の民間試験でいいのかという議論もくすぶっている。かといって、政治の思惑で、やっと始まった英語教育改革の流れを止めることは許してはならない。

すでに日本の英語教育は、ヨーロッパはもとより、中韓より20年以上遅れ、タイやベトナムにも後塵を拝している。

「完璧な制度」を待っていては、新たな「失われた20年」が繰り返されるだけなのだ。受験生への救済措置は万全を期し、導入を延期してはならない。制度を見直しながら走るしか、日本の英語教育に残された道はないのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款 】

「世界に負けない教育」すべての記事を読む