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力で組み伏せた“理想の家族”は地獄だった 結愛ちゃんを虐待死させた父親に本日判決

法廷取材で見えてきた事件の真相【フジテレビアナウンサー島田彩夏】

カテゴリ:国内

  • 懲役18年を求刑された船戸雄大被告に本日判決
  • 法廷で泣き崩れた優里被告が恐れていたものとは・・・
  • 法廷取材で見えてきた、元夫婦の歪んだ「理想の家族」へのこだわり

こんなにもやりきれない光景はないと思った。

ほんの2メートル離れて、男は顔を覆い、女はむせび泣いている。
男は被告で、女は証人だ。
かつて夫婦だったこの2人の間には、いまは互いを見ることがないように厳重に遮蔽の衝立が置かれている。
そして何十人もの傍聴人の目が2人を凝視する。
声を発することは許されない傍聴席だが、そこには、2人の子供だった幼い女の子の無残な死への、どうしようもない怒り、悲しみ、そして戸惑いが渦巻いているように感じられた。

「なぜ死なせた」
「なぜ救わなかった」
「なぜ、そんなひどいことができるんだ」

なぜ。
なぜ-------わたしも傍聴席にいた。

逮捕時と激変した法廷の雄大被告

養子の船戸結愛ちゃんへの傷害、保護責任者遺棄致死などの罪で起訴された継父の船戸雄大被告の裁判が10月1日から始まっていた。

扉が開き雄大被告がだぶだぶのスーツ姿に腰縄をつけて入廷して来る。その青白さと痩せ方にわたしは唖然としてしまった。多くの人が覚えているであろう、あの逮捕時の眼鏡をかけていた様子、または現場検証のときの頭を剃った様子をわたしもまた思いながらいたが、実際の雄大被告はそれはそれは細く小さく、白いというよりは青白く、生気も感じられなかったので、まるで半分くらいになってしまったかのように思えた。口をきゅっと結んだところにだけ意思が見えるような気もしたが、雄大被告は足早に被告人席へ進み、座ったあとは首を折ってひたすら下を向き続けていた。

こんな、弱々しい、自信なさげな男が5歳の幼女を殴りつけていたのか・・・なんとも言えない情けない思いでわたしは雄大被告を見続けた。

衝立を挟んで対峙した元夫婦

10月7日、4月に離婚が成立した元妻の優里被告が検察側の証人として出廷することになっていた。

午後、優里被告の証言する時間が近づくと裁判長が衝立を運ぶように指示した。大人の男性よりも背丈のある衝立が雄大被告の前に設置されてゆく。ガムテープでじゃばらの折り目の隙間を塞ぐ。幅は4~5メートルほどもあるだろうか。証言台からは被告の様子が完全に見えなくなっている。雄大被告は生気のない顔を一層深く垂れていた。

準備が整い裁判長が促すと扉が開けられた。しかし、誰も入ってこない。しばらくすると扉のむこうの廊下から「・・・い!・・・こわ・・・い」という、か細い声が聞こえてきた

まるで泣くような、すがるような細い叫びだった。それは徐々に大きくなりはっきりと誰の耳にも「怖い・・・!」と言っているのがわかった。やがて女性刑務官に抱えられるように優里被告が足を引きずりながら入廷してきた。傍聴席の目がいっせいに優里被告に集中する。彼女は両目をハンカチで覆い、体を小さく丸めながら倒れこむように証言台にたどり着いた。すすり泣きが荒い息遣いになり「怖い、怖い、怖い」と震えている。

優里被告は雄大被告から心理的DV(ドメスティックバイオレンス)を受けていた。自身の裁判の一審では精神的影響は認められるものの強く支配されていたとまではいえないとされた。優里被告は控訴中だ。

あっ、と息を飲む。

優里被告が床に膝から崩れ落ちたのだ。刑務官らが支えて座らせるが何度も腰を浮かせてこの場から去ろうとする様子を見せている。この取り乱し方ではもしかしたらこの日は証言はできないかもしれない・・・。そう思うほどだったが、裁判長から大丈夫?と聞かれ優里被告はようやく決意した様子で大きく〔大丈夫です〕と頷いた。

衝立に完全に背をむけ、裁判長らに真横を向く座り方でようやく尋問が始まった。両手は耳をふさぐようにしている。

衝立のむこうの雄大被告は、顔をハンカチで覆い顔を膝にくっつけるように更に小さくなっていた。

虐待で亡くなる子供を一人でも減らすにはどうしたらいいのだろうと、結愛ちゃんの悲しいニュースを報じて以来その一心で取材を続けている。この記事を読んでくださる多くの皆さんも事件に対する強い怒りと、どうにかしなければという思いを抱いているのではないだろうか。なぜ救えなかったのか。雄大と優里の両被告が結愛ちゃんを死に至らしめたには違いないが、この社会の大人の責任として皆さんと共有して考えていけたらと思いながら原稿を書いている。

二人が憧れた「笑顔の絶えない家族」

優里被告(左)と雄大被告(右)

優里被告の裁判も傍聴した。
そして、一連の裁判を通じて2人には奇妙な共通点がいくつかあることに気づいた。

「明るくて何でも言える家族です・・・」

裁判で雄大被告は理想の家族像をこう語った。
優里被告も自身の裁判で理想の家族を「笑顔の絶えないにぎやかな家庭」と答えている。

2人とも「明るく笑顔の絶えない家庭」を作りたかったというのだ。しかし実際は雄大被告の機嫌を損ねないように顔色をうかがいながら生活する家族が出来上がっていた。

証人として、法廷で優里被告は背後の衝立を気にしながらではあるが次第に落ち着きを取り戻してきていた。だが質問が優里被告が雄大被告に隠れて結愛ちゃんにチョコレートやチーズなどを与えていた話に及んだときだった。

検察官に「それらをあげていることを雄大被告には伝えていましたか」と聞かれた優里被告の様子が急変した。

「・・・内緒にしていました」と答えた後、突然、
「ごめんなさいっ!・・・・」と叫んだのだ

聞いていたわたしも驚いた。わたしは顔をあげて優里被告を見た。両手で顔と耳のあたりを覆いながらがたがた震えている。優里被告の過呼吸のような息遣いだけが響いていた。誰に謝ったのか。質問者にではないだろう。

さらにこの日、なぜ雄大被告の言いなりになっていたのかと聞かれた優里被告は10秒ほどの沈黙の後、語気強めにこう絞り出した。

「わたしが、バカだからです!」

まただ。優里被告からこの言葉を聞くのは何度目だろうか。
そのとき雄大被告は顔をくしゃくしゃにしながら衝立の向こうで泣いていた。

「優里さんを威圧するようになっていきました」

優里被告が泣いても感情が収まらなければ怒鳴り続けた。

「優里さんは(自分に対して)気を遣ったり遠慮したり言いたいことが言えないようになったように感じました」
雄大被告は、後日こう供述した。

2人に共通する「自己肯定感の低さ」

虐待され亡くなった船戸結愛ちゃん

優里被告の裁判で、優里被告と結愛ちゃんの主治医だった木下医師は優里被告のことを「自己評価がすごく低い」と証言し、診察時「わたしはあほだから。夫は年上で社交的で尊敬できる」と言っていたことを明かした。

一方の雄大被告は妻と娘に対しては威圧を増大させていったのだから尊大な性格なのかとも思ったのだが、実はこの2人のもうひとつの共通点として「自己肯定感の低さ」があったというのだ。

雄大被告と何度も接見し裁判で証言した心理学が専門の西澤教授は雄大被告について「自尊感情がなく、自己肯定感が低い」と思ったという。

優里被告の見ていた「尊敬できる夫」も実は同じように自分に自信がなかったのだ。雄大被告は他者からどうみられているかを常に気にし、評価されないことに不満を募らせていった。その暗い感情のうねりが濁流となって何の罪もない弱い結愛ちゃんに向かったのだ。

「理想の家族」へのこだわり

裁判を聞き進めるうちに、なんとも言えない居心地悪さを感じた。それが何なのか初めはわからなかったが、2人ともまるで夢を見ているかのような発言が散見されることだと気づいた。

結愛ちゃんを暴行し、閉じ込め、栄養失調状態に追いやりながら、2人とも最後の最後まで「理想の家族」にこだわり続けていたのだった。

優里被告は児相との関係を疎ましく思うようになるが、その理由を「家族がぐちゃぐちゃになるからです」と言った。

「一時保護から結愛が帰ってくると、雄大は優しくなるけど少したつとまた結愛に厳しくなってぐちゃぐちゃになります。」

「(児相の介入がなければ)家族4人で楽しく暮らせると思いました。」

もう壊れていた家族だったはずではないか。
結愛ちゃんの傷が日増しに増えていっていたのではないのか。
何度も離婚を考えたのではなかったか。

亡くなった結愛ちゃん

そして雄大被告が、結愛ちゃんが重篤な状態になっても病院に連れていかなかった理由を聞かれた答えもまた、理解に苦しむ。

「事件が発覚して、わたしが結愛を虐待した事実に基づき逮捕されて、家族がバラバラになってしまうこと(を恐れての)保身です」

家族はすでにバラバラではなかったのか。あざだらけの、瘦せ衰えた結愛ちゃんを目の前にしても雄大被告の目にはそう映らなかったのか。

一体この2人には何が見えていたのだろうか。

雄大被告と優里被告がともに築こうとした「明るい家庭」。
そして最後までこだわりつづけた「家族」というかたち。
しかし実際は力で組み伏せた家族の皮を被った地獄だった。

「結愛のことも、息子のことも、わたしひとりだけじゃ2人を守れないけど、今はもう助けてくれる人がいるので・・・」

優里被告が絞り出すように叫んだ。
「もう、結愛と息子には近づかないでほしいです!」

決別の涙が、結愛ちゃんのいない今となっては一層悲しかった。この言葉を結愛ちゃんが生きている間に言うことができていれば・・・そう思わずにはいられない。多くの専門家が指摘する。結愛ちゃんは救える命だった。

“救えた命”をなぜ救えなかったのか

検察側は雄大被告に懲役18年を求刑した。
弁護側は懲役9年が相当としている。
判決公判は今日午後3時から行われる。

雄大被告、そして優里被告が、自らがやったことへの責任を取るのは当然のことだと思う。
と同時に、これを雄大被告、優里被告、児相などだけの問題として終わらせてはいけないと思う。わたしも、正直に言うと、結愛ちゃんの絶望と恐怖を思えばこの2人への怒りを禁じえないし、よくもあんなむごいことがと、腹から湧き出る憤りを感じる。ただ、この2人に怒りをぶつけるだけでは変わらない、とも思う。

この事件から学べることはなんだろうか。

雄大被告と優里被告は関係機関や近所の目から逃れ、知らない町でまた「家族」のかたちを維持しようとしたが、それはもう「家族」と呼べないものなんだと気づくことは、もはや本人たちの力では無理だった。DVを受けている母親は自分で考え行動をとることが難しいとされる。逃げられないなら、雄大被告に沿うことしか優里被告には考えられなかったのではないか。早い段階で機関が介入し、優里被告と結愛ちゃんを雄大被告から切り離すことができていれば事態は変わっていたのではと思う。

児童虐待が社会問題となってからは法改正もあり、識者や関係機関も何とかしようと動いている。しかし、虐待死はなくならない。

平成29年度、わかっているだけで1週間に1人のこどもが虐待によって命を奪われた(厚労省)。これは心中を除く数字で、かなり控えめな数字だと指摘する専門家も多い。

【執筆:フジテレビ アナウンサー 島田彩夏】
【取材:社会部+フジテレビアナウンサー 島田彩夏】

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