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虐待から「救うチャンス」は何度もあった なぜ自治体は事件を教訓に再発防止策を講じないのか

虐待死ゼロへ 「救えるはずの命」を確実に救うために②

カテゴリ:国内

  • 東京・目黒区の船戸結愛ちゃん虐待死事件の後も、同様の事件は後を絶たない
  • 少なくとも4度の「救えるチャンス」を阻んだものは
  • 事件を「教訓」に再発防止策を講じないのはなぜ?

前回の記事【結愛ちゃん事件の再発防止策は今も打ち出されず、同じような事件がいつまでも続く】では、先月東京地裁で母親に懲役8年の実刑判決が下された(母親は控訴)、東京・目黒区の船戸結愛ちゃん虐待死事件は、児相をはじめとする「関係機関の情報共有と連携しての活動」によって防げたはずの事件だと述べました。

しかし、結愛ちゃん事件の後も結愛ちゃんを救えなかった東京都、香川県のほか、政府や多くの自治体も再発防止策である「関係機関の情報共有と連携しての活動」を実施しないままです。そして、私どもが懸念していたとおり(私は千葉県庁には一昨年9月に、鹿児島県庁には今年5月に訪れ、それぞれ要望しましたが受け入れられないままでした)、今年に入り千葉県野田市・心愛さん事件、札幌市・詩梨ちゃん事件、鹿児島県出水市・璃愛来ちゃん事件など、結愛ちゃん事件と同様の虐待死事件が続発しています。

千葉県野田市・心愛さん事件では、少なくとも4回の「救うチャンス」があった

今年1月、千葉県野田市で小学4年生の栗原心愛(みあ)さんが虐待死した事件。心愛さんの命は、結愛ちゃん同様、確実に救うことができた命でした。千葉県の児相が、私どもの要望を受け入れていただいた27の自治体のように、案件を抱え込まず警察等関係機関と全件共有し連携しての活動を行っていれば、少なくとも4回は確実に助けることができた機会がありました。

栗原心愛さん(享年10)と栗原勇一郎被告

まず、心愛さんが父親から暴力を受けていると学校に訴え、学校から通報を受けた時点です。このときに、児相は警察に通報しませんでした。児相が警察に連絡していれば、父親は心愛さんを10発も殴っていたと訴えていたのですから警察が父親を逮捕することにより、その後父親に対して大きな虐待の抑止力となりました。このような対応をしていれば、心愛さんはその後決して虐待を受けなかったと思います。
次に、児相が一時保護を解除しようとした時点で、警察や市町村等他機関の意見を聴きさえすれば、心愛さんは殺されることはなかったと思われます。市町村や警察、病院、学校等の児相以外の関係機関は、児相よりはるかに子どもの安全を重視します。この時点で明らかに危険な父親と判明していたわけですから、意見を求められればこれらの機関は解除を思いとどまるよう児相を説得したでしょう。児相がこうした意見を謙虚に受け止めさえすれば、児相も解除を取りやめ、心愛さんは殺害されることもなかった可能性もかなりありました(しかし、後記鹿児島県璃愛来ちゃん虐待死事件における鹿児島県児相のように、児相は他機関の意見を受け入れない体質が極めて強いことから、千葉県の児相も他機関の意見を受け入れず、家に戻していた可能性の方が高かったとも考えられます)。
さらに、一時保護を解除し、家に戻した時点です。前記のように一時保護を解除すべきでありませんでしたが、解除してしまった場合でも、その後、市町村、警察等多くの機関が連携して頻繁に家庭訪問し、心愛さんの安否を確認するという子どもを守るために当たり前の対策を講じていれば、心愛さんは殺されることはありませんでした。
最後に、心愛さんが長期欠席したことを知った今年の1月の時点です。長期欠席というのは極めて危険な虐待の兆候なのですから、それを知った時点で児相が警察に連絡さえしていれば、警察が直ちに家庭訪問し衰弱していた心愛さんを保護することができました。

以上のように、千葉県の児相が、案件を抱え込むことなく警察と全件共有し連携した活動を実施していれば、確実に心愛さんを救うことができたはずなのです。

心愛さんは2017年11月に父親からの暴力を訴えていた

札幌市や鹿児島・出水市での事件にも「救うチャンス」はあった

次に、今年6月札幌市で2歳の池田詩梨(ことり)ちゃんが虐待死した事件。これも確実に救うことができた命でした。北海道の児相は道警と全件共有と連携しての活動に取り組んでいたのですが、札幌市の児相はそれを拒否し、警察との連携が不十分なままでした。
本事件では、札幌市の児相には昨年9月に通報がありましたが、児相は母親と面会し虐待でないと判断し、リスクアセスメントシートを作成せず、今年4月の通告があった際には面会できなかったにもかかわらずそのまま放置していました。
その後5月に警察にも通報があり、児相は警察から2回同行を求められましたが2回とも断り、警察のみで家庭訪問していましたが、その後虐待死に至らしめてしまいました。警察に110番が入った以前に児相の把握している情報は警察と共有されていなかったとされていますが、警察と事前に情報共有していれば、110番通報等を受け対応する警察も、より正確に虐待リスクを判断できたと思われます。

藤原一弥容疑者と池田莉菜容疑者

さらに今年8月、鹿児島県出水市で4歳の女児、大塚璃愛来ちゃん(りあら)ちゃんも確実に救うことができました。7月まで住んでいた薩摩川内市で今春、警察が4回も夜中に家を出されるなどしていた璃愛来ちゃんを保護し、鹿児島県の児童相談所に一時保護が必要だと2回も申し入れていましたが、児童相談所は「親子の愛着が感じられるなど一時保護を必要と判断しなかった」とし、4月3日に家庭訪問して以降一度も家庭訪問していませんでした。8月5日には、転居した出水市で病院が璃愛来ちゃんに複数の青あざがあると出水市に通告しましたが、市は児童相談所にも警察にも連絡しませんでした。8月7日に転入を把握した出水警察署が家庭訪問の有無等を市に尋ねた際にも、市は警察にあざがあったことを伝えていませんでした。また、保育所には3ケ月で15日しか登園していなかったとされています。
まず、鹿児島県の児童相談所が警察の一時保護すべしという意見を聴いていれば、璃愛来ちゃんは虐待死させられることはありませんでした。千葉県の児相と同様、他機関の意見を尊重せず、子どもを保護しない児相の体質が露わな事件です。
次に、出水市が璃愛来ちゃんにあざがあるという情報を児相にも警察にも情報提供していませんでした。この点は、全国の多くの児童相談所や市町村が、子どもにあざがあってもさえ「大したことないので警察と連携する必要がない」と判断し、他機関と連携して子どもを守ろうとしない体質が表れています。

大塚璃愛来ちゃん(享年4)

事件を「教訓」に再発防止策を講じないのはなぜ?

以上のように結愛ちゃん事件以後も、千葉県、札幌市、鹿児島県と立て続けに、児童相談所が市町村、警察等関係機関と情報共有し連携して対応していれば救えるはずの命が救えなかった事件が立て続けに起こっています。そして、東京都、千葉県、札幌市、鹿児島県いずれの児童相談所も、このような事件を引き起こした今でさえ、警察との情報共有はごく一部に限定したまま、相変わらず、案件を抱え込んだままの対応を続けています。

一方で、8月には沖縄県で、9月には川崎市、相模原市、横須賀市で全件共有と連携しての活動が始められ、現時点では27道府県・政令市等で実現しています。救えるはずの命を救えなかった事件を引き起こした自治体では、自らが防げなかった事件を全く教訓としないのに対して、それ以外の多くの自治体ではそれらを教訓として再発防止策を講じている、という誠におかしな逆転現象が起こっているのです。
私は、東京都、千葉県、鹿児島県に、上記の事件が起こる前から、児相と市町村、警察との全件共有と連携しての活動を行うよう要望しておりましたが、いずれの自治体も受け入れないままこのような事件を引き起こしています。事件後、私は、札幌市も併せてこれらの自治体に知事あてに要望書を提出、記者会見をするなどし働きかけていますが、東京都の小池知事、千葉県の森田知事、札幌市の秋元市長にはいまだ応じていただいていません。上記27の自治体の知事・市長のように、児相の案件抱え込みを止めさせ、関係機関が情報共有の上連携して活動するよう児相に改善を指示することなく、これまでどおりの対応を続けたいという児相の役人の言い分を受け入れてしまっているのです。
知事・市長が子どもを守る側に立つのか、役人の側に立つのか。信じられないことに役人の側に立つ知事・市長がまだまだ多いというのが現実です。

札幌市児童相談所の会見(2019年6月)

9月18日、大阪市を訪れ、大阪市長と堺市長あてに、3回目となる児相、市町村、警察との全件共有と連携しての活動を求める要望書を提出し、記者会見しました。結愛ちゃん事件後も同様の事件が続発しており、児相がこのまま他機関と十分な情報共有も連携もしないままでは、同様の事件が大阪市、堺市でも起こってしまうと訴え、速やかな実現をお願いしてきました。

来週、鹿児島県を訪れ、知事(知事に面会が叶わない場合には然るべき方)に直接要望し、記者会見する予定ですが、鹿児島県三反園知事が、他機関との連携を嫌がる児相の側でなく、子どもを守る側に立ち、全件共有と連携しての活動を実現していただくことを強く期待しています。

[執筆:後藤啓二(弁護士、NPO法人Think Kidsこどもの虐待・性犯罪をなくす会代表理事)]