災害時インフラ最新情報

結愛ちゃん事件の再発防止策は今も打ち出されず、同じような事件がいつまでも続く

虐待死ゼロへ 「救えるはずの命」を確実に救うために①

カテゴリ:国内

  • 「救えるはずの命」 児童相談所の判断と対応は
  • 警察との連携に極めて消極的な児相
  • 東京・香川らの自治体はいまだ「全件共有の上連携しての活動」を受け入れず

2019年9月、結愛ちゃん事件から1年半が経ち、ようやく母親の公判が行われ、凄惨な虐待の実態が改めて明らかになりました。このような悲惨な虐待死事件を繰り返さないためには、事件を防げなかった原因を分析し、それに応じた再発防止策を整備しなければなりません。しかし、国も多くの自治体もほとんど何も対策らしきことはしないまま、有効な再発防止策は整備されないままです。その結果、千葉県野田市・心愛さん事件、札幌市・詩梨ちゃん事件、鹿児島県出水市・璃愛来ちゃん事件と、結愛ちゃん事件の後も同様の事件が続発しています。私からすれば、これらの事件は、すべて「救えるはずの命」でした。

亡くなった船戸結愛ちゃん

「救えるはずの命」 児童相談所の判断と対応は

結愛ちゃん事件については、香川児相、東京児相が適切に対応していれば、結愛ちゃんの命は「確実に」救うことができました。しかし、香川児相、東京児相の対応は次の通りでした。

〇香川児相―2回も一時保護、2回も書類送検されるような危険な事案で、病院からあざがあり虐待の恐れありと通告され、結愛ちゃんからも父親にやられたと訴えを受けながら、親が否定したことをもって「虐待でない」と判断。警察にも連絡せず放置
〇東京児相―自宅を訪問した際、母親から面会拒否されると「親との信頼関係を優先」として警察にも連絡せず放置

香川児相が、結愛ちゃんにあざがあり、父親からやられたと訴えー犯罪を受けたという被害者、しかも子どもの訴えなのです-しかも二度も暴行罪で書類送検されている暴力的な父親なのですから、警察に連絡すべきであったことは明らかです。連絡を受けた警察が父親を逮捕あるいは警告等することにより、父親に対する虐待の抑止力が高まり、結愛ちゃんを救うことができました。なぜ子どもの被害者の訴えを無視するのか、なぜ子どもに暴力を加える加害者をそこまで擁護するのでしょうか?
また、面会拒否は極めて危険な虐待の兆候です。東京児相が母親から面会拒否されたときに直ちに警察に連絡し、警察とともに家庭訪問すべきでした。警察官と児相職員とで親への影響力は格段に違います。警察と一緒に家庭訪問すれば、親は警察に対してはまず面会拒否をすることはありませんから、子どもに会うことができ、警察が衰弱している結愛ちゃんを発見し、緊急に保護することができたはずです。

結愛ちゃんが虐待を受けていた東京・目黒区のアパート

警察との連携に極めて消極的な児相

上記のとおり香川児相、東京児相のいずれかが、警察に連絡さえしていれば、結愛ちゃんを救うことができたのです。しかし、香川児相、東京児相のいずれもそうしませんでした。あざがあり子どもが親からやられたと訴える、親が面会を拒否する、という極めて危険な虐待の兆候を把握しながら、警察等他機関と情報共有せず案件を抱え込み放置したのです。

実は、東京児相、香川児相のみならず、多くの児相は警察との情報共有に極めて否定的です。この極めて排他的で、警察に限らず他機関と情報共有も連携もしないというのが、長い間多くの児相の悪弊です。警察は自ら把握した虐待案件はすべて児相に提供しますが、児相は自らが把握し案件を抱え込み、ほとんど警察には提供しません。

結愛ちゃんを救えなかった最大の原因は、このような香川児相、東京児相の警察と情報共有すらしない排他的体質にあることは明らかです。そうすると、必要な再発防止策は、児相の排他的体質を改めさせ、案件を抱え込ませず、市町村、警察、学校、病院等子どもを守ることができる多くの機関で虐待案件を共有し、連携して子どもを守る活動をする態勢を整備するということになります。

船戸優里被告と船戸雄大被告

そもそも、常識的に考えて、児相という一つの機関だけで虐待の被害児童を見守るよりも、市町村、警察、学校、病院、民生委員等多くの機関の多くの目で、子どもが虐待を受けていないか、危険な兆候がないか見守ることとした方が、確実に子どもを守ることができるということに、異論のある方はいないでしょう。また、一つの機関だけでは、虐待が疑われる情報を把握していなくとも、複数の機関が把握している情報を総合すると、虐待の危険がかなりあると分かることがあります。多くの機関で虐待を受けている子どもの情報をできるだけ多く集約して、虐待の危険を判断していくことが必要なのです。

そして共有される案件は虐待が疑われるすべての案件にしなければなりません。親が虐待を隠すことは通例で、子どもは自ら被害を訴えられないのですから、通報を受け1回や2回家庭訪問しただけで虐待リスクを正確に判断することは、神ならぬ人間の身では不可能です。児相が当初「虐待による外傷がなく、安全だ」判断した事案でも、実は、腹を殴られている、水風呂につけられている等の事案が多数あるのです。また、その後の親の精神状態の悪化、シングルマザーが暴力的な男と同居を始める等により急に虐待が悪化することも珍しくありません。これまで児相が関与しながら虐待死に至らしめた事件の多くは、当初児相が「これは緊急性が低い」と判断し、警察に情報提供しなかった事例です。子どもを守るためには、「虐待リスクの正確な判断は1回や2回ではできない」という謙虚な考えに立ち、確実に漏れなく多くの機関で案件を共有し、関係機関が連携して子どもを守る活動に取り組まなければならないことは明らかです。

栗原心愛さん(享年10)、船戸結愛ちゃん(享年5)、池田詩梨ちゃん(享年2)

東京・香川らの自治体はいまだ「全件共有の上連携しての活動」を受け入れず

しかし、結愛ちゃん事件を引き起こした東京都・香川県ではいまだ「全件共有と連携しての活動」をやろうとはしません。事件直後に、両都県に私どもから知事あてに要望書を提出し、香川では知事と直接面談して要望しても、受け入れられませんでした。長年の悪弊である児相の排他的体質が原因であることが明らかな事件が起こっても、これらの自治体では「全件共有と連携しての活動」を行わず、今までどおりの児相だけで案件抱え込む対応を続けています。これではいつまでも同じような事件が続きます。これらの自治体の児相職員の排他的体質の根強さ、その改革を指示しない知事・市長らの虐待問題への無関心、役人へのリーダーシップの欠如とそれを問題視しない議会・マスコミなどこの問題を通じて様々な問題点が明らかになっています。

また、政府が結愛ちゃん事件後の昨年7月20日に打ち出した緊急対策でも、今年の児童福祉法等の改正でも、このような関係機関が連携して子どもを守る態勢の整備に全く触れず、自治体にも指示しませんでした。そして、千葉県や札幌市、鹿児島県でもこのような態勢の整備をしませんでした。その結果、千葉県野田市では心愛さん事件、札幌市では詩梨ちゃん事件、鹿児島県出水市では璃愛来ちゃん事件と、児相が知りながら警察と十分な情報共有も連携もせず、救えたはずの子どもの命が救えないという、結愛ちゃん事件と同様の事件が続いているのです。

一方、他の道府県・政令市では、結愛ちゃん事件をはじめ多くの虐待死事件を教訓に、私どもの
要望を受け、「関係機関と全件共有し連携しての活動」を実現するところが増えており、現在では27に上っています。このような意欲のある自治体が着実に増えつつあるなど明るい動きも出てきています。

次回では、結愛ちゃん事件以後も、「全件共有と連携しての活動」を実施しないまま、千葉県野田市心愛さん虐待死事件、札幌市詩梨ちゃん虐待死事件、鹿児島県出水市璃愛来ちゃん事件と続く、虐待死事件について述べていきます。

[執筆:後藤啓二(弁護士、NPO法人Think Kidsこどもの虐待・性犯罪をなくす会代表理事)]

「虐待ゼロへ」すべての記事を読む