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“輸出管理”めぐりWTO日韓決裂の舞台裏…韓国は国内向けの「顔」を使い分け

カテゴリ:ワールド

  • WTOで輸出管理めぐり日韓が主張を訴えるも折り合わず
  • 韓国側は「反応がないのは強い支持」と大胆な解釈
  • 韓国にとっては国内向けに必要なパフォーマンス

“日韓問題は、この場に適さない”

スイス・ジュネーブのWTO=世界貿易機関で、輸出管理上の優遇措置撤廃をめぐって、日韓がそれぞれの主張を訴えたが、またしても折り合うことはなかった。

WTOの一般理事会での議題化を要求したのは韓国側であるため、まずは韓国が発言し、それに対して日本が発言するという順番である。なお、関係者によると、WTOの一般理事会で議題化されることは難しいことではない。要請すれば、よほどの反対意見がなければ受け入れられ、議題化を強調するほどの大袈裟な事態ではないという。

さらに言えば、WTOには現在、160以上の国と地域が加盟していて、メンバーからすれば、「二国間の問題なら、ここではなく別の場所で議論してほしい」というのが本音だろう。
実際に、今回の理事会後、FNNのインタビューに答えた各国からは、こんな声が聞こえた。
「対話は二国間で続けてほしい。ここは、その場所ではない」
「ここは、『世界貿易機関』だ。だから、世界的な議論をするべきだ」


理事会では、韓国が、「日本の措置は元徴用工訴訟へをめぐる政治的な思惑があり、国際的な貿易体制に打撃を与える」などと主張したのに対し、日本は「過去の問題には関係なく、WTOのルールに沿っていて、WTOでの議論に適さない」と反論した。

日本政府代表団

“反応がない=「韓国への強い支持」”解釈の飛躍

一方、韓国の金勝鎘(キム・スンホ)新通商戦略室長は、「日本側に協議を申し入れたが、断られた」と主張し、「日本は、自分たちがとった措置に向き合う自信がないということだ」と言い放った。
さらに、「日韓の直接対話について、反対するか尋ねたところ、どの国からも反応がなかったことを、韓国への強い支持と受けとめた」と言って見せた。

「反応がないのは、強い支持」・・・大胆な解釈だ。

出席者によると、この時、周りのメンバーは失笑していたそうだ。
理事会に参加した外務省の山上経済局長は、「日韓協議について、議場での言及はあったが、正式な要請は受けていない」と明らかにしたほか、ジュネーブに駐在する日本の伊原大使は、落ち着いた様子でこう語った。
「日韓の主張後、WTO加盟国に意見を述べたいメンバーがいるか尋ねられたが、いなかった。どう解釈するかは皆さん次第だが、メンバーの反応は、これが事実だ。しかも、最後には、議長が、『この問題は、二国間で解決されることを願う』と締めくくった。これが、私が見た事実だ」。

韓国政府代表団

国内向けの顔と海外向けの顔を使い分け

実は、今月始めに行われたWTOの会合でも、会議の結果公表の仕方に疑問が残った。
韓国は、メディアに対し、「この時間になったら内容を公表してよい」といった、解禁時間の約束をつけた形で、会議で発言する内容を事前に説明した。つまり、少なくとも韓国メディアでは、事前に説明した内容が、時間が来ればそのまま報道されてしまうということだ。


事前の説明にあった発言内容は、日本に対して厳しく、政治的なものが多かったが、実際に会議に出席した日本側の関係者によると、「予想したより穏当」であり、発言についても、事前にメディアに言っておきながら、実際にはなかったものが複数あった。
同じく7月、日本の経済産業省で行われた実務者協議で、韓国は、日本に対して措置の撤廃を要求した」と発表したものの、日本政府は「要求されていない」と否定し、抗議する事態となった。

さらに、今回のWTO一般理事会の後、金(キム)室長は“英語”で会見を始めた。
世界にアピールする狙いだろう。そこで、韓国語の質問が飛ぶと、「韓国の記者はあとで」と遮り、英語の質問しか受けつけなかった。
会見の場にいたメディアは、日韓の記者がほとんどであり、その他のメディアはアメリカのロイター通信だけであったにもかかわらず、である。
その後、別の場が設けられ、韓国メディア向けに会見が行われた。
国内向けと海外向けの発信を使い分ける 、韓国の態度が浮き彫りになった。

会見にのぞむ韓国の金勝鎘(キム・スンホ)新通商戦略室長

現場の雰囲気は?

その場で取材にあたっていた、日韓の記者の雰囲気はどうだったか。
今回の理事会は、2日間予定されていて、当初は初日に終わるとみられていた日韓の議論は、他の議事進行との関係で2日目にずれ込んだ。
会議は非公開であるため、私たち記者は、初日に会議場前で長時間待つことになった。
もちろん、最後まで日本メディアとは言葉を交わさない韓国メディアもいたし、腹の探り合いのような雰囲気もあった。

しかし、互いに、日本語と韓国語を翻訳し合う助け合いの場面が見られたのも事実だ。
30年前に学んだという日本語で、話してくれた記者もいた。伊原大使の会見では、韓国の女性記者が質問攻めにして感情的に食いつく場面があったが、この記者が、カメラが回っていない時には、日本の記者と談笑していたのを見た。
やはり、ある程度、ダブルスタンダード(二重基準)の部分があると感じた。
批判されないために、国内向けの「顔」を持っている気がした。

伊原純一・在ジュネーブ特命全権大使

ダブルスタンダードと文化の力で

私はこれまでに何度も韓国旅行をしたことがある。数多くの韓国ドラマも見てきたし、韓国人の友人もいる。
ふと思い出したのが、“反日”として有名だった人気女優が、実は密かに日本旅行をしていたことや、日本に住んだ経験があり、日本語が堪能な人気女優もいることなどだ。
歴史ドラマでは、「倭寇」や「豊臣秀吉の朝鮮出兵」などで日本人が悪く描かれることが度々ある一方で、現代ドラマでは、登場人物が日本語を話す場面もよく見られる。
もちろん、本当に反日の人たちもいるが、表向きには、「日本が好き」とは言いにくい社会の中で、日本に対する感情が悪くない人たちも、少なくない。

今月に入り、日本製品の不買運動などが起きているものの、いわゆる元慰安婦問題、レーダー照射問題、元徴用工訴訟などなど、関係悪化の原因になる問題が山積みの中、先月の韓国からの観光客は、61万1900人(前年同月比+0.9% 日本政府観光局調べ)だった。
日本の方はというと、第三次韓流ブームとまで言われ、Kポップや韓国コスメの人気は衰えない。ブームの中心となっている若い年齢層にとっては、政治と文化は別なのかもしれない。
外交のエキスパートたちがいかなる努力をしても改善できなかった日韓関係を、いわゆる「冬ソナブーム」があっさりと変えてしまったことを思い出す。あの時、「文化の力はすごい」と思った。しかし、約10年続いた友好ムードは、2012年、当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領の竹島への上陸で吹き飛んだ。

韓国での反日デモ

日韓関係は今、泥沼化し、今後も基本的に「良くはない」関係の下で、ダブルスタンダードと文化の力を借りながら、悪化と改善の浮き沈みを繰り返すのだろう。

今回の、輸出管理上の優遇措置撤廃をめぐっては、韓国はWTOへの提訴の準備を進めていると明らかにした。
WTOに紛争処理小委員会(裁判の1審にあたる)の設置を要請して提訴し、判断に不服の場合は上級委員会に上訴できる。最終的な結論が出るまで、2年~3年かかることもあるという。
目まぐるしく動く国際情勢の中で、最終判断が出るころには遠い過去の話として忘れられている可能性が高い。
それでも、韓国にとっては国内向けに必要なパフォーマンスなのだろう。

【執筆:FNNパリ支局長 石井梨奈恵】

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