取材困難…中国の“超敏感エリア”新疆ウイグル自治区に行ってきた 多くの日本人が誤解していること

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  • ウイグル族男性が語った「再教育施設」
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“超敏感”…取材困難な新疆ウイグル自治区

2009年7月に発生したウルムチ暴動

2009年7月、漢族への不満から暴動に発展した新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ市での大規模騒乱。当局の発表によると197人が死亡し、1700人以上がけがをした。暴動から10年の節目でウルムチ市の変化ぶりを取材しようと先日、現地へ行った。

中国で少数民族問題は政治的に敏感なテーマの一つで、特に新疆ウイグル自治区で少数民族問題に焦点をあてた独自取材は中国当局に歓迎されず、外国人ジャーナリストの間では取材難度が最も高い“超敏感エリア”として有名だ。過去にも、空港に着いた瞬間現地当局者のお迎えが来ていて追い返された、滞在中ずっと尾行がついた、ウイグル族に話を聞こうとした瞬間拘束された、などといった話が語り継がれている。

中国メディアが少数民族を扱う場合、基本的には「民族が団結している」「生活が向上し少数民族も中国政府に感謝」などといった当局の公式見解ばかりで、民族間の対立に焦点をあてがちな外国メディアには当局も神経を尖らせているとみられる。が、幸いにも今回は間隙を縫うことが出来た。

ウルムチ市内では建設ラッシュ

筆者は10数年前にもウルムチ市を訪れているが、空港は新しくなっており、市内に入るとかつては砂漠だったというところでマンション建設ラッシュが進んでいたりと、街の発展ぶりは明らかだった。地元の人によれば、生活レベルも向上したという。

自治区全体ではウイグル族が多数派だが、ウルムチ市内の人口は、この約20年で見ても他の民族と比べ漢族の増加が最も多く、現在は概ね4分の3が漢族で占められている。また、多くのウイグル族も流暢な中国語を話し生活している。町の看板には中国語とウイグル語が併記されているが、街並みは他の中国の都市とそう変わらない。つまり発展とともに街が漢族化しているのだ。

ウルムチ市内のモスク

ハイテク機器も…徹底監視で安定維持

町中に設置された監視カメラ

10年前の暴動以降も、自治区の他の地域でも漢族との格差などに不満を持つウイグル族によるテロや暴動が相次いだことから、中国当局は市民の監視を強化。市内には無数の監視カメラが設置され、数百メートルごとに警察施設が設けられていた。また、都市間の移動には幹線道路などにある検問を通らなければならず、車は窓を開けて通るよう要求され、乗車する人について顔認証カメラによる識別が行われていた。

数百メートルおきに設置されている警察施設
都市間の移動には検問

さらにはガソリンスタンドに入るには、入場登録をしなければならず、モスクの前には監視カメラが設置され、私服の警察官が目を光らせていた。

中国政府は今年3月、白書を発表し、新疆ウイグル自治区で2014年以降、テロに関与したとして約1万3000人を拘束し、4858回の違法な宗教活動を摘発したと報告している。 こうした“効果”があってか、「新疆ではここ3年暴力テロ事件が起きていない」と中国政府は胸を張っている。

ガソリンスタンド入口の横には入場登録所
モスク入口には複数の監視カメラ 電光掲示板には”過激主義”検挙に向けた党のスローガン

今回取材できたウイグル族も暴力には反対しており、治安のためにはある程度の監視や管理もやむを得ないと考えている人は少なくないと感じた。取材に応じた漢族もウイグル族も「最近は悪い奴らがいなくなった」「安全になってよかった」などと口をそろえていた。しかし、プライバシーや個人の権利といったことを主張するのはタブーであり、「外国人記者」と聞いた途端に口をつぐんでしまう、といった様子からも、下手な発言をすればどうなるかわからないという強いプレッシャーが彼らにあることが伺えた。

また、新疆ウイグル自治区では疑わしい人などを通報する制度があり、ちょっとした言動によってテロリスト予備軍扱いされかねない、という恐怖心があるとみられる。つまり彼らがよそ者である外国人記者に現状への不満を語るというのは命を懸けるに等しい行為なのである。

ウイグル族男性が語った「再教育施設」

“テロリスト予備軍”扱いされた人たちが送り込まれるのが「職業技能教育訓練センター」だ。中国当局は過激思想の影響を受けた人物に教育を行っていると主張しているが、海外在住のウイグル族からは、裁判も経ずに多くの人たちが事実上の監獄のように収容され、暴力や拷問、洗脳教育が行われているとの証言もあり、「再教育施設」だとして国際的な批判が高まっている。

「再教育施設」とみられる建物

今回、「再教育施設」とみられる施設が撮影できたが、地図にも載っておらず、一般の車は入れないところにあり、高い壁に囲まれ、殺風景な居住施設のような建物など外見としては刑務所そのものといった印象だった。こうした施設は自治区内に多数造られており、国際人権団体は収容者が約100万人にも上ると指摘している。

この「再教育施設」について、多くの地元の人が口を閉ざす中、あるウイグル族男性が語ってくれた。その証言によると、施設に入るのは、主に農村出身者など学歴が低く、中国語が話せず、就業機会にも恵まれない人たちで、中国語や技術を教え、出所後は職を与えるのだという。いわゆる底辺層の人たちが、社会に不満を持ち、過激化するというケースが多いため、民族対立問題などの根底にある貧困を解消することで、テロ防止につなげる対策だという。

男性によると、「1週間に一度家に帰る」ことができるが、24時間以内にまた施設に戻らなければならない」「人によって1年、2年と期間は異なる。中国語や技術を習得出来たら出られる」とした上で、「滞在費、学費などは全て国が出してくれる」などと肯定的に話していた。これが本心なのか、見えないプレッシャーからの発言なのかはわからない。

しかし、不当に拘束され、苛烈な拷問や暴力を受けたというような証言は枚挙にいとまがない。実態は不明瞭だが、恐らく施設や入所者によってだいぶ扱いが異なるのではないか、という印象を受けた。

多くの日本人が誤解していること

市内手荷物検査場の検査員もウイグル族

ウイグル自治区では、漢族が「監視し支配する側」、ウイグル族などの少数民族が「監視され支配される側」とイメージされがちだが、必ずしもそれほど単純な構図ではない。例えば、監視し、取り締まる側の警察官も現地ではほとんどがウイグル族ら少数民族だ。また、地元の共産党幹部など、こうした政策を推進する側にもウイグル族がいる。

「習近平総書記と新疆各民族の心は繋がっている」というスローガン

一般のウイグルの人達も今や漢族経営の会社で働いたり、漢族相手に商売をしたりと、生活の安定のためには中国語を話し、漢族中心の中国社会の中で生きていくことが現実的になってきている。抑圧の中において、ウイグル族であっても現状の捉え方は立場によっても異なるだろう。ただでさえ言論が厳しく制限される中、平和的手段であってもウイグル族が一致して声を上げるのは難しくなっているのだ。

【執筆:FNN北京支局長 高橋宏朋】

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