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「いつ死んでもいいけど…」 妻に先立たれた男性が抱える“孤独”への備え

カテゴリ:国内

  • 「人生100年時代」は65歳以上の夫婦2人世帯が増え、死別を経験する年齢も高齢化
  • 妻に先立たれた男性が語る「“家庭という社会の場”が世界からなくなった」
  • 専門家「心の天秤は4年半~5年で揺れがゆっくりとなる」

皆さんは、配偶者と死別した後の自分を思い浮かべたことはあるだろうか。
「人生100年時代」と言われるようになっても、生きている以上、パートナーのどちらかが先に亡くなることは避けられない。そのとき、取り残された人間はどう対処すればよいのだろう。

元気なシニアが増えた、現代の社会問題となっている。

配偶者と死別した後の生活とは?

厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」によると、国内では「どちらかが65歳以上かつ、夫婦2人で生活する世帯」が増加傾向にある。1986年の1,782世帯(65歳以上世帯における構成割合:18.2%)に対し、2018年は8,045世帯(同:32.3%)に増えた。

総務省の「国税調査」では、配偶者との死別を経験する年齢自体も高齢化している。1985年に行われた調査では、65歳以上の男性の15.6%、女性の59.1%が配偶者との死別を経験しているが、これが2015年の調査になると、65歳以上の男性の10.1%、女性の38.7%にとどまっている。

死別後の生活とは...?(画像はイメージ)

これら数字の変化は、元気な高齢夫婦が増えた証拠でもあるが、いきなり「独居老人」となってその後の生活が続く可能性が、ここ30~40年で高まっていることも分かる。

現在のシニア世代、これからシニアを迎えようとしている世代では、昭和から続いた「夫は仕事に出る、妻は家庭を守る」といった価値観を持つ世帯も少なくないはず。

このような世帯をモデルに、配偶者と死別した後の生活を想像すると、一般的には、妻の場合は家事全般をこなせるし、地域とのコミュニティもあると思われるが、夫の場合は大変かもしれない。
家のことはよくわかっていなく、仕事一筋ならば、仕事と家庭以外のコミュニティがない可能性もあり、日常生活を送るだけで精いっぱいなのに加えて、孤独に追いやられることもあるだろう。

配偶者を亡くした悲しみは同じでも、その後の生活には違いがありそうだ。
まずは、妻に先立たれた、高齢男性の経験談を聞くことができた。

「家庭という社会の場」が世界からなくなった

取材に応じてくれた高齢男性

――妻と死別した経緯は?

2016年の夏に亡くなりました。妻は「進行性核上性麻痺」という神経疾患の難病を患い、手足がどんどん不自由になりました。2013年ごろから私が在宅で介護していたのですが、窒息状態になったことがきっかけで、救急病院で寝たきりとなり、その後、延命治療もしましたが、徐々に衰弱して亡くなりました。

高齢夫婦で2人暮らしだったので、死別後は1人で生活しています。


――辛い経験をしたと思うが、どのような影響があった?

メンタルへの影響はものすごかったですね。
妻という存在がいなくなったことで、妻とこれまで一緒に作ってきた「家庭という社会の場」が世界からなくなりました。


例えるなら、職場がいきなり消えた、自分の居場所がなくなったような感じでしょうか。帰宅しても「家に帰った」という感覚がなくなりました。「自分がここに生きていても意味がない」と思うようになりましたね。「いつ死んでもいい」と言う心境になりました。

また、心に穴があいたようで、それまで「価値がある」と思っていたものに価値が感じられなくなりました。花などの写真が趣味でしたが撮らなくなりました。 花が美しく感じられません。

死別から3年が経ちますが、ショックはまだ癒えていません。回復を10段階で表すなら、6~7割程度でしょうか。


――生活にはどのような変化があった?

夫婦2人でやっていたことを、1人でやることになりました。近所づきあい、家計の管理、食事など、衣食住の多くを妻に任せていたので大変でしたね。自宅もすぐ汚れてしまいますし、外出するにも「何を着ていけば良いのだろう」という状態でした。

ただ自分の場合は、難病の妻を在宅介護したことが家事の訓練になりました。また、ある意味で妻が亡くなることを覚悟した部分もありました。生活をつらいと思うこともありますが、今では料理なども作れるようになったんですよ。


“隙間”を何かで埋めていくしかない

――精神的な負担にはどう対処した?

自分の場合は、あえて忙しく行動するようにしました。
昔の趣味をやっても妻を思い出して悲しくなるので、触ったこともなかったピアノを始めたり、町内会の活動に積極的に携わるようになりました。

難病疾患の患者会のお手伝いをしたときは、自分と同じような状態の人が他にもいて「自分だけじゃないんだ」と思えるようになりましたね。また、連れ合いを亡くした方々と友人になって、気持ちや境遇について話し合っています。このほか、「グリーフケア」という悲嘆回復のプログラムも受けています。

死別を受け止め、乗り越えるのは難しいです。亡き妻への強烈な思慕は消えません。しかし、結局は自分の中での「価値」や「生活」の隙間を、少しずつ、少しずつ、新しい何かで創造的に埋めていくしかないのではないでしょうか。いきなり独身に戻った状態、とも言えますので。


――悲嘆回復のプログラムはなぜ受けた?

妻との死別をアメリカの友人に話した際、「アメリカでは専門家のグリーフケアを受けるのが普通だよ」ということを聞き、受けてみることにしました。

プログラムでは話を聞いてもらうのですが、自分がなぜこういう気持ちになっているか、自分だけが特別にとんでもない気持ちになっているわけではないこと、今後の精神状態の予想など、多くの助言をいただき、納得することができました。また、カウンセラーは心情的にずっと寄り添ってくれました。

まだつらさはありますが、自分の精神的な立場を知って、気持ちも落ち着きました。


「人間は一人では生きられない」とはよく言われるが、この高齢男性の場合は、死別から3年経った今もつらさを感じるという。

長年連れ添った配偶者との死別はショックも大きいだろうが、立ち直るためにできることや、もしもに備えて、今から何か準備しておけることはないのか。一般社団法人・日本グリーフケア協会の会長である、東北福祉大学の宮林幸江教授にも話を伺った。


死別後は4つの反応で「心の天秤」が揺れ動く

つらい時は「心の天秤」が揺れ動いていると考える(画像はイメージ)

――家族に先立たれたとき、夫と妻では反応・影響に違いはある?

私もそれが気になり、以前、遺族約250人を対象に、身体的・心理的な影響があったかどうかをアンケート調査しています。健康状態や気分障害に若干の違いはありましたが、決定的な男女差は認められませんでした。

つらいのは、夫も妻も同じということですね。

ただ、ケアの経過観察を見ていると、死別後の「これから何をするべきか」というとき、男女では行動には違いがあります。女性は誰かを頼り、趣味に取り組み、グループを尋ねますが、男性はじっと家にこもり、自分だけでなんとかしようとする傾向にありました。その点では、男性はつらく感じるかもしれません。

死別を経験すると、生活自体はどうしても荒れてしまいます。「ちゃんとした生活をしなければ」と思える方は立ち直れますが、「自分の人生はおしまい」と諦める期間が長くなると、調子を崩してしまうでしょう。


――死別後、残された方にはどんな影響が出る?

遺族への調査を通じて、死別を経験した後、私たち日本人には大きく4つの反応が出ることが分かりました。その内容は...

1.亡くなった人を思い、愛しい・恋しい思いに占有される「思慕と空虚」
2.人と違う、自分が小さくなったような感覚に代表される「疎外感」
3.何もやりたくない...と落ち込む、うつにそっくりな「うつ的不調」
4.頑張らなきゃ、今を生きなければという「適応・対処の努力」


このうち、1・2・3が「喪失思考」、4が「現実思考」となり、2つの思考が「心の天秤」のように揺れ動きます。例えば、亡くなった方への思いが強いと「このままではだめだ」と現実思考が出てきますし、現実ばかり見ていると「亡くなった方が気がかりに...」と喪失思考が強まります。

このような感情の上下が繰り返されるので、疲れてしまうのです。

調査では「心の天秤」が揺れ動く期間も調べていて、4年半~5年くらいでゆっくりになることが分かりました。心が落ち着く目安と言えます。


日々の生活を丁寧に生きてほしい

――立ち直るためには、どうすれば良い?

死は誰にも訪れます。それが早いか遅いかです。絶対に立ち直れるので、焦らないでください。

妻に先立たれた夫の場合だと、苦労するのは当たり前です。一人で料理できた、洗濯機を回せた。それでいいんです。亡くなった方に「ゆっくり覚えてね」と言われていると思い、日々の生活を丁寧に生きてほしいですね。

死別経験者の傾向として、頑張りすぎてしまうことがあります。それが強く出て長く続くと、うつと類似する反応を起こしてしまうので、つらいときは、少し美味しいご飯を食べ、休みを取り、熟睡を感じる睡眠をとるよう心がけてください。

同じ境遇の方がいると、より孤独感が癒やされるでしょう。そのような方に話を聞いてもらうのも良いでしょう。


――パートナーが生きているうちにできることはある?

夫婦の役割をチェンジしてみてはいかがでしょうか。例えば、買い物をするにしても、妻なりの理由で商品を選んでいます。なぜその行動をするのか?などと聞いておくと、負担は少なくなるはずです。

また、夫婦の片方が病気になったと想定して、過ごす日を作っても良いでしょう。パートナーの普段の行動も分かりますし、元気でいてくれることのありがたさも分かります。

これは死別後の話となりますが、子どもたちは「一番悲しいのはお父さん・お母さん」と自身の悲しみを我慢しがちです。年忌や記念日などに合わせて、亡くなった人のことを話す機会を設けるのも良いでしょう。


できるうちに、普段の感謝を伝えるのも一つの方法だ(画像はイメージ)

大切なパートナーと死別すると、孤独感を覚えたり、生きる意味を失ったような感覚に陥るのは避けられないだろう。それでも「心の天秤」と向き合いながら、今を生きることが、残された者ができることなのかもしれない。

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