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『安倍ちゃん、高村首相の下で閣僚やれよ』安倍政権は日本を取り戻したのか【前編】

カテゴリ:国内

  • 高村さんは首相になりたくなかった
  • 熱狂のない総裁選で安倍さんが勝った
  • 安倍さんはやりたい事を何もやってない

安倍さんの復帰はまだ早い

平成24年(2012年)9月の自民党総裁選に安倍晋三さんが出ると聞いて驚いた。
直前に菅義偉・組織運動本部長(当時)が記者団と懇談し、「総裁選に安倍さんを出す」と明言したのだが、多くの記者の反応は冷たかった。
僕もある筋から「昭恵夫人が反対している」と聞いていたので、菅さんに「出るのは無理じゃないですか」と言った記憶がある。
 
6年前に小泉純一郎首相に後継に指名され首相になったものの、翌年の参院選で大敗して自民党は過半数を失い、安倍さんは体調不良もあって1年で政権を投げ出してしまった。
 
その後の福田、麻生政権は脆弱で、民主党にあっけなく政権を奪われてしまった。
これは元はと言えば安倍さんのせいだ、と皆が思っていた。
だから民主党政権の崩壊で今や自民党は政権を奪い返そうとしているが、安倍さんの復帰はまだ早いというのが永田町の空気だった。

「首相はイヤ。外交担当の首相補佐官ならいいけど」

でも安倍さんは出てしまった。
後から周辺の人にこんな話を聞いた。
当時麻生太郎元首相は谷垣禎一総裁を推していたのだが、出ないと言っていた石原伸晃幹事長が出ると言い出したため、谷垣さんは出馬を断念。
この時に出馬を相談した安倍さんに麻生さんは、
「安倍ちゃん、まだ早い。今回は高村さんに首相になってもらって、その内閣で重要閣僚をやって、その次に首相になればいいじゃないか」と答えたという。
 
しかし麻生さんに出馬を勧められた高村正彦元外相は、
「首相になるのはイヤ。外交担当の首相補佐官ならいいけど」と答えたという。
高村さんらしい。断れらた麻生さんはしぶしぶ安倍さんに支持を伝えた。

2012年9月13日 高村正彦元外相と挨拶を交わす安倍晋三氏

この時点でメディアによる総裁選の見立ては本命石原、対抗が石破茂前政調会長、安倍さんは3番手と見られていた。
流れが変わったのは、安倍さんの「金融緩和」と石原さんの「中国は攻めてこない」という2つの発言だった。
市場は安倍発言を好感し、逆に石原さんには世間の冷たい目が向けられた。
ここで石原さんは3位に落ち、石破さんと安倍さんの事実上の一騎打ちになった。
 
石原さんは「ジジイ殺し」で、森喜朗、古賀誠、青木幹雄の重鎮の支持を、取り付けていたのだが、もし決戦投票になったら、彼ら3人は石破さんよりは安倍さんを選ぶのではないか、という見方が強かった。
でも僕は国民に人気のある石破さんが党員票で大差をつけ、2001年の小泉さんのように議員票でもその勢いで勝つのではないかと思っていた。
と言うか、その方が自民党にとっていいのではないかという気がしていた。 

熱狂のない総裁選で安倍さんが勝った

2012年自民党総裁選

第1回目の投票は、
1位が石破さんで199票だが過半数には届かず、2位は安倍さんの141票。
3位の石原さんは96票と伸びず、ここで脱落した。
石原さんは「中国は攻めてこない」の一言でつかみかけていた首相の座を逃した。
石破さんは党員票で安倍さんの倍取ったが、小泉さんの時ほどの勢いはない。
 
決選投票は108対89で安倍さんが逆転勝ちした。僕の予想は外れた。
石破さんは国民の人気はあったが小泉さんほどではなかったし,党内に敵が多かった。
安倍さんは「復帰はまだ早い」と思われていたが、金融緩和発言で市場が背中を押した。
 
熱狂のない不思議な総裁選であった。ただし円安になり、株は上がった。
野党の党首選で株が上がったのは初めてのことだろう。
日本発で世界の市場に影響を及ぼしたのも初めてだった。
だからその後の安倍外交には重みが加わった。
その年の12月の総選挙で自民党は圧勝し政権を奪還した。
 
政権交代は平成に入って4回目だったが今回が最も静かだった。
1回目の細川政権は革命のような大騒ぎだった。
2回目の自社さ政権は、社会党の首相誕生にとにかく驚いた。
3回目の民主党政権には多くの国民が期待した。
そして今回、一度失敗した安倍さんの復帰が早すぎたのと、民主党の失敗へのショックで、国民は政治に希望を持っていないように見えた。

安倍さんは4つのやりたいことを実現せよ

しかし第2次安倍政権は予想外に力強かった。
強さの最大の理由は金融緩和の成功だった。
外為は民主党政権時の東日本大震災を機に1ドル70円台に突入していたが、安倍発言によりすぐに80円台になり、
翌13年5月に100円台、14年12月には120円を突破し、長く日本を苦しめた円高は終わった。
 
これに呼応するように株価も、1万円を割っていた日経平均がすぐに1万円を、そして15年には2万円を超えた。
 
これは何物にも代えがたい成果だった。
日本経済が過去の栄光にもはや浸っていられないのはわかっている。
しかしこのまま泥沼に沈んでいくのではないかという恐怖感があり、それだけは避けなければならないと考える人は多かった。
僕のような経済の素人でさえ、少ない資産の海外移転を考えていたほどだ。

この頃、安倍さんの側近と話をした。
側近氏は安倍政権が本当にやりたいことを教えてくれた。
まずアベノミクス3本の矢である金融緩和、財政出動、規制緩和で経済を強くする。
これで支持率を稼いで、安全保障では国民の嫌がることもやる。
その上でやりたいことが4つある。
憲法改正、拉致、北方領土、それに皇位継承の安定だ。
いずれもリスクがあるので経済で稼いだ支持率の貯金が必要だ。だから経済第一だ。
そういう話だった。

アベノミクスは成功したのか失敗したのか。
株は上がり、企業業績も良くなり、雇用も増えた。
一方物価は上がらず、給料も増えない。
たぶんデフレは抜け出したはずなのに気分はデフレのままなのではないか。
だから企業は給与を上げられないから物価も上がらない、国民も消費しない。
これはアベノミクスのせいではないだろう。
 
確かにアベノミクス3本の矢のうち3つ目の規制緩和は甘いと思う。
ただ労働規制の緩和などを見ていると死に物狂いで反対しているのは労働組合であり、野党であり、メディアであり、サラリーマンたちだ。
野党はメディアや国民を扇動して規制緩和を妨害しているように見える。
 
安倍内閣の支持率が高いのは経済が良くなった、すなわちアベノミクスが成功したからではなく、バラバラになって力を失った旧民主党を絶対に許さない、という民意だろう。
そういう相対的高評価ゆえなのか、安倍さんは、安保改革などはやったが、4大目標については実現できないまま平成が終わり令和を迎えた。
 
まず憲法改正はいまだに憲法審査会さえろくに開けない。
拉致と北方領土は金正恩とプーチンという、G7的価値観とは全く相いれない2人の指導者とのハードな交渉が、なかなかうまくいかない。
皇位継承は、旧宮家の復活にしても、女系天皇にしても、左右両サイドの反発が強すぎて落としどころがない。

今のままでは安倍さんは4つのうち一つも達成できないまま、総裁任期が終わってしまう可能性が強い。どうするのか。
僕はむしろ安倍さんは最後に4つ全部やってしまうのではないかと思っている。
 
たとえば改憲は立憲や共産などは全く無視して、賛成してくれる人を一人ずつ押さえていき、2/3超えたら強行採決する。
あとは国民投票に任せるだけだ。
萩生田幹事長代行が言う「ワイルド」な憲法審査会の運営だ。

北朝鮮は核ミサイルの交渉は米国に任せ、こちらは拉致だけで、北朝鮮が誠意を見せれば解決したとして経済支援を行う。
 
北方領土は2島先行返還で残りの2島は今後協議することで平和条約を結ぶ。
 
そして皇位継承はとりあえず女性宮家の創設だけ決める。
その上で男系男子を守る方法はあるのだが、そこまでは踏み込まない。
とりあえず愛子さまを皇室に残すと決めることが大事なのだ。
 
安倍政権は基盤は作ったが実はやりたいことはまだ何もやっていない。
残り2年半の任期こそ、安倍さんが本来やりたいことをやる時期ではないか。
安倍政権はこれからが面白くなると思う。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】
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