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「アメリカ式対話興味ない」……金正恩氏の切り札はあの“マダム”

カテゴリ:ワールド

  • 「アメリカ式対話興味ない」……条件付きで米に方針転換迫る
  • 崔善姫外務次官が国務委員に……上流階級出身のマダムが実権握る
  • 金委員長のポスト変更なし……絶対権力の強化誇示

「アメリカ式対話に興味ない」……米に方針転換迫る 

北朝鮮で国会にあたる最高人民会議が11日から2日間、平壌で開催された。
ベトナム・ハノイでの第2回米朝首脳会談が物別れに終わったのを受けて、北朝鮮の次の一手が注目されていた。

最高人民会議(4月12日)

金正恩朝鮮労働党委員長は初日の会議には参加せず、2日目の施政演説で米朝首脳会談に言及した。
「アメリカは全く実現不可能な方法だけに頭を働かせて会談場に訪れた」
「問題解決する準備ができていなかったし、はっきりした方向と方法論もなかった」
「一方的に自分の要求だけを押し付けようとする米国式対話法は体質的に合わず、興味もない」

金正恩朝鮮労働党委員長(4月12日)

金委員長は、2回目の首脳会談でのアメリカの態度に不満を爆発させた。
北朝鮮が寧辺核施設の廃棄と引き換えに全ての制裁を解除するよう要求したのに、アメリカ側はこれを全面的に拒否したからだ。

金委員長は、アメリカによる大陸間弾道ミサイル迎撃実験や軍事演習再開を「露骨な敵視政策」と指摘。
「アメリカは北朝鮮を圧迫すれば屈服させられると誤解している」と不信感を露わにした。
ただ、トランプ大統領個人とは「立派な関係を維持している」として依然良好な関係だと強調し、こう呼びかけた。
「米国が正しい姿勢をもって我々と共有できる方法論を見つける条件で第3回首脳会談を開くなら、一度はやってみる用意がある」
「今年末までは忍耐をもって米国の勇断を待ってみるが、前回のように良いチャンスを再び得るには確かに難しいだろう」
つまり、アメリカが年内に方針を転換し、北朝鮮が求める段階的非核化を議題にするなら、第3回首脳会談に応じるというわけだ。

米朝首脳会談(2月 ベトナム・ハノイ)

同時に金委員長は、制裁解除問題のための首脳会談に「執着する必要がない」と断定した。
「アメリカが今の政治的計算法に固執するなら問題解決の展望は暗く、非常に危険であろう」
金委員長の発言からは交渉に期限を設けることで緊張を高め、トランプ氏に政治的決断を引き出す狙いが伺える。
お得意の「瀬戸際」+「トップダウン」戦術だ。

とはいえ、頼みのトランプ氏は北朝鮮が完全な非核化に応じるまでは制裁を維持する姿勢を崩していない。
11日の文在寅韓国大統領との首脳会談でも、制裁解除について「今は適切な時期ではない」と述べ、早期制裁緩和に積極的な文氏に釘を刺した。
金委員長が新たに提案した「条件付き首脳会談」は実現するのか。今後米朝間で激しい駆け引きが展開しそうだ。

崔善姫外務次官が国務委員に……上流階級出身のマダムが実権握る

対米外交のキーマンとして金委員長が期待をかけるのが、核交渉を担う崔善姫(チェ・ソンヒ)氏だ。
今回の最高人民会議では国務委員会の委員に抜擢されただけでなく、国会にあたる最高人民会議の外交委員会委員にも任命され、スピード出世ぶりが一躍注目の的となった。
また、北朝鮮メディアが国務委員会のメンバーを紹介した際、崔氏の肩書が外務次官から第1次官に変わっており、外務省でも昇格したことが分かった。
さらに党でも中枢の中央委員会で候補委員を飛び越えていきなり委員となるなど、随所で躍進ぶりが際立つ。

金委員長に報告する崔善姫氏

崔善姫氏は2度にわたる米朝首脳会談で、実務責任者として米側と交渉にあたってきた。
特にハノイの米朝首脳会談では、金委員長の隣に座り直接交渉経緯を報告する姿が公開された。
交渉決裂後は深夜の記者会見で「金委員長が交渉意欲を失うのではないかと懸念する」と発言し、金委員長からかなりの権限を与えられていることを伺わせた。

米朝首脳会談決裂後、記者会見する崔善姫氏

崔善姫氏は、2010~13年に首相を務めた崔永林氏の養女。
1964年生まれで、オーストリアや、南欧マルタなどに留学経験があるという。
北朝鮮の上流階級の出身でいわばセレブ中のセレブだ。
1990年代に外務省で通訳としてキャリアをスタートし、00年代に6カ国協議の通訳として外交の表舞台に登場した。
10年に米州局副局長、11年に6カ国協議次席代表、16年に米州局長と順調に出世を重ねてきた。

筆者も何度か取材しているが、立ち居振る舞いが堂々としていて、一般の外務官僚とは違う印象だった。
協議の合間にショッピングに出かける姿も目撃されており、特別待遇が許されていると感じた。
今回の崔善姫氏の抜擢は、制裁解除に向けた対米交渉力の強化を狙ったものとの見方が強い。
李容浩外相に続き崔善姫氏が国務委員会に加わったことで、外交面で国務委員会の役割が増大しそうだ。

金委員長のポスト変更なし……絶対権力の強化誇示 

最高人民会議は初日の11日、金正恩氏を国務委員長に再任した。
今回、最高人民会議の代議員選挙に金委員長が立候補せず、新たな国家元首のポストを設けて就くのではないかとの観測が広がった。
だが、今回の会議では、肩書は変わらなかった。
北朝鮮メディアは今回の最高人民会議で憲法改正が実施されたことを伝えたが、その内容は明らかにしていない。
金委員長のポスト変更はなかったが、国務委員長を国家元首とするよう憲法が改正された可能性は残る。

金正恩氏の国務委員長再任を伝える労働新聞(4月12日)

一方、金委員長の権力強化がさらに進んだことを示す場面が、最高人民会議に先立つ10日に開催された党中央委員会総会で見られた。

昨年の総会では、主席壇と呼ばれる会場のステージに、金委員長は金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長ら3人とともに座った。

2018年の中央委員会総会

だが、今年は1人だけだった。
「金委員長の絶対的権力を象徴し、その地位が強化されたことを示すもの」(韓国統一省当局者)という見方が出ている。

中央委員会総会(4月10日)

第2回米朝首脳会談が不調に終わったことで内部に動揺が広がらないよう、最高指導者としての権威を内外に強くアピールする必要もあったと言えよう。

(執筆:フジテレビ 報道センター室長兼解説委員 鴨下ひろみ)


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